雲が花を見つけたら
□雲が花を見つけたら
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五月も後半の事。
爽やかな風が、生い茂る緑の匂いを運んでくる。
「三年二組」とあるプレートに、さもおっくうな表情を見せた雲田が、教室の席に着くと、二人の男子生徒が近寄ってきた。
「雲田っち、おはよ!」
「昨日も放課後までご苦労なこったな、フッ」
二人のニヤニヤした顔を見るや否や、雲田は眉間にシワを寄せる。
「誰が好き好んで草むしりなんてするかよ、大体こうなったのも、大地、春秀、お前らのせいだろ」
そういうと、八重歯をチラつかせ陽気な表情の、赤井 大地(あかい だいち)は、
「ごめんって!雲田っち〜!でも、はるちゃんだって悪いんだぜ!?」
と、大地は隣りにいるクールでポーカーフェースの、青葉 春秀(あおば はるひで)を指さした。
「一緒に草むしり出来ずに悪いな、雲田。フッ」
「春秀、そう思うなら手伝えよ。つか笑ってんじゃねえよ」
「まあ無論、却下だが」
雲田は深いため息をついた。
ところで、なぜ雲田が裏庭の草むしりをするようになったかというと。
「そもそもなあ、大地が現国のテストの時に、俺に話しかけてきたのが原因なんだからな」
そう、つい先日の現国のテストの時のこと。
静まりかえる教室で、大地が雲田にジェスチャーで答えを求めてきたのが始まりだった。
「違うってえ!最初、はるちゃんに教えてもらおうと思ってジェスチャーしたのにさ、はるちゃんが雲田っちに教えてもらえっていうから!ねえ、はるちゃん!」
「ああ、そしたら現国の森センが気づいて、なぜか雲田だけにカンニングの容疑がかかり、罰として草むしり隊長に任命…フ、笑えるな」
「いや、全然笑えねえけど」
からかう二人に朝から呆れる雲田。
すると、予鈴のチャイムと共に、現国の教師で、担任の“森セン”が教室に入ってきた。
「おー、席つけえ」
その声にクラスの生徒はバタバタと席に着く。
生徒が席に着いたのを確認してから、森センは、
「じゃあ、まず、今日は出席を取る前に、前から話してた教育実習生を紹介する」
「教育実習生?」
クラスが少しざわめくと同時に、扉の外から見たことのある男が現れた。
その男の顔を見た雲田は、驚き、目を丸くした。
「はあ!?あ、アンタ!?昨日の!」
雲田の大声に、男は可笑しそうに笑った。
「なんだ、このクラス、草むしり君のクラスだったのか」
「嘘だろ…教育実習生って…!アンタみたいに適当なヤツが教育実習生!?」
その言葉に男は「ひどいなー」と笑いつつ、一つ咳払いをし、改めて挨拶をした。
「この度、教育実習生として桐野峰台第三高校で現代国語を教えます。名前は、」
この男との出会いが、雲田の日常に大きな変化をもたらす事を、
「丘 花次(おか はなつぐ)です、よろしくお願いします」
雲田自身、まだ知る由もなかった。