恋愛・ソリューションズ

□最終章
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「し、塩澤さ、あの、温泉旅行は」
「馬鹿か、予定変更」

塩澤に腕を引かれてその後ろをただついて歩く富樫。

(…怒ってる? よな、塩澤さん…せっかくの温泉の予定ダメにしちゃったし、どうしよ俺)

無言で手を引かれる程数分もしないうちに一度訪れたことのある塩澤のマンションに着いていた。

玄関に入り、まだ無言の塩澤に

「あの、塩澤さん、俺!」

言いかけた瞬間、ふわりと塩澤の匂いに包まれた。

「え、ちょ…」

塩澤は何も言わずに富樫をきつく抱きしめた。

「あの、苦しいです…塩澤さん」

それでも黙っている塩澤に、富樫は今日のことを謝ろうとした。すると、

「富樫、ごめんな」
「え…」

(それ…俺のセリフ)

聞き返すと、きつく抱きしめられたまま塩澤は富樫の耳の近くで低く呟く。

「俺、自信ねえ」
「…は?」

唐突な、また予想だにしていない言葉に富樫は目を丸くした。

「いや、さっきとった行動。池田さんからお前を離してよかったのか…自分の行動に今ちょっと自信ない」
「ちょ、何キャラですか、いつもの強気はどこ行ったんですか!」

そうだ、いつもなら相当な俺様で「俺が全部正しい」そう思うような人のはず。
なんで今日に限ってこうなのだろう。

「馬鹿、茶化すな」
「…すいません。でも俺、よ、良かったです」
「何が?」

富樫は、塩澤の背中に手を回した。

「助けてくれて…良かったです。ほんと…」
「それ本当?」
「ほ、ホントですよ…、だって俺、塩澤さんが来てくれなかったら今頃池田さんに」

考えただけでぞっとした。大好きな人だったはずなのに、どうしてだろう、答えはとっくに出ていたのだ。

「…俺さ、さっきも言ったけど、今の池田さんになら絶対負ける気しねえ」
「…」
「でも、お前が好きだった頃の池田さんに勝てるか分かんねえ。ふにゃふにゃした笑顔なんて出来ねえし、部署も今は違うから仕事も教えてやれねえ」
「…」
「それでも、お前が俺を選んでくれるまで待つから。俺でいいって日が来たら教えてくれないか」

自信満々ないつもの彼の姿はなく、まるで余裕のない中学生のせいのような彼らしくない自信のないセリフ。

(…怒ってたわけじゃなくて…ただ不安だったのか…?)

そんな姿がたまらなく愛おしくなった富樫は、彼の耳元で呟いた。

「そんなの、もうとっくに選んでますよ…」

最後の方の言葉は小さく、まるで細い糸のような声になっていたが、精一杯の自分の答えだった。

「…それって、俺で良いって事か?」
「違います」
「は?」
「塩澤さんで良いんじゃなくて、俺は…塩澤さんが、良いんです、それさっき駅で池田さんに言おうとしたら塩澤さんが現れたから…」
「富樫…やべえ」
「な、何がですか?」
「すげえ好き、大好き」
「う、わ、分かりましたからいい加減離して下さいよ、暑苦しいな」

富樫は塩澤の腕から離れようとするが、塩澤はなかなかその腕の力を緩めなかった。

「ちょ、塩澤さん」
「だって、お前が俺の事好きなんて、夢かと思うだろ…。今離したらお前、どっかいっちゃうような気がして…情けねえけど、怖ええから離したくない」
「夢…じゃないです、俺ちゃんとここにいます、だから…だから大丈夫です」

富樫の言葉に塩澤の腕の力が緩んだ。

「富樫…、好きだ、お前は?」
「は、さっき言ったでしょ、それと同じようなこと」
「だーめ。ちゃんと言え。んで、ちゃんと、これが夢じゃないって俺に証明して」
「証明って…」

富樫は赤面しながら、小さく口を開いた。

「俺も、その…す、好きです…よ、って!わあ!塩澤さ」

言いかけた矢先、開いた口は塩澤のそれできつく塞がれた。

「んぅ…ひ、ひおざわさっ…ん…」
「富樫…好き、大好き…だから抱きたい…」
「へ!?」
「いやじゃなかったらお前からキスして」
「は!?」
「大丈夫、嫌だったらしないし、途中で怖いっつーならやめる。お前の嫌がることはしない。だから今のお前の気持ちを聞かせて」
「ええ!?」

富樫はしばらく俯いて考えたあと、おずおずと手を伸ばし、塩澤の薄い唇に軽く触れるようなキスを落とした。

「富樫…」
「別に…嫌とかじゃ…ないし…だから…」

ぶっきらぼうに答えると塩澤は優しい笑みを零し、富樫に覆いかぶさった。
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