殺人鬼の過去

□愛する人の教え
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お母さんの手が僕の首にあって。
その力はどんどん強くなってゆく。



お母さんはこの時、いつも僕にこう言うんだ。








「あんたなんか…、あんたなんか…」




と、目に薄い涙の膜を張りながら。


















お母さんは、僕の誕生日の日も、クリスマスの日も、いつもいつも、そんな事を言いながら両手に力を入れて泣いていた。






ねぇ、お母さん。
これって≪愛してる≫って意味だよね。

僕を愛してるから、こうしてるんだよね。








この行為は、口を聞いてくれないお母さんがたった一つ、僕に教えてくれた、愛してる、のサインかもしれない、と僕は思ってた。












中学に上がった日。
僕の知らない男が家に来た。
となりの部屋で僕の大好きなお母さんと二人きりで何かしてる。



腸が煮えくりかえるってこういう時に使うんだね。




だってお母さんは僕の。
僕だけのもののはずだろう。


お母さんは僕を愛してて、僕もお母さんを愛してる。






僕はお母さんがいつもそうしてくれるように、両手いっぱいに力を入れた。


≪愛してるよ≫って言いながら。





でも、大好きなお母さんは何故か動かなくなった。




おかしいね。





こんなにも愛してるから抱きしめているのに、
どんどん冷たくなってゆく。
















ねぇ、お母さん。
あれから僕ね、お母さんの他にも大好きな人ができたんだ。












彼女の事を愛してる。
だからあの時と同じように両手に力を入れて
≪愛してる≫って伝えるんだ。









なのに、なんでだろう。






どうして、彼女は悲しい顔をするの?









大好きなお母さんに教えてもらった、たった一つの事なのに。







ねぇ、お母さん。どうして?











end



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