Kiss in the dark

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 世界各地で報道されるバイオテロのニュース。世界に比べれば小さな島国の日本にも、そのニュースは流れてきている。しかし何故かバイオハザードに関連した事件は報告されたことはない。
 平和で治安もよろしい日本だからそんな物騒な事件は起こるわけがない、ではなく実情バイオハザードは日本でも起きていた。ただ真実が明るみに出ることはなく、政府がもみ消しているだけであった。
 現にラクーンシティーの翌年にある町村がアンブレラの餌食となり、のどかな片田舎はミサイルによって滅菌された。幸か不幸か。片田舎なこともあって感染が都市まで流れることはなかったが、事実は再び闇の中に。
 その町村には一人生存者がいた。彼女の名前はナナシナナコ。ウィルスの抗体を持っている事もあったが、事件が外に漏れることを恐れた政府は理由を付けてナナコを監視下に置いている。

「ナナコ!!」
「はい!」
「官房長がお前をご使命だ」
「えっ……。私、何か仕出かしましたか…;;」
「さぁな?早く行って来い」
「…。分かりました」

 監視下に置かれているとはつゆ知らず。自力で警視庁の刑事になったナナコは捜査一課の巡査として日々精進しながら逞しく働いていた。
 彼女自身もあの悲惨な事件を思い出したくはない。まともに睡眠時間を取れないほどの激務でも、仕事をしていると何もかも忘れられる。
 はじめは破損の激しいホトケを見るたび、ゾンビになった村人がフラッシュバックして吐いていたが、刑事になって一年経つ頃には気持ちの切り離し方を覚えた。事件を思い出したくないといいながら、この仕事に就いている自分に矛盾を感じていた。それでも刑事になったことに悔いはない。

「緊張する…」

 官房長に呼び出しをくらったナナコは隣にある警察庁に向かう。本人も警察の詳しい仕組みはよくわかっていない。簡単にいってしまうと、警視庁の上が警察庁で。官房長とはその警察庁のトップに立つ人物。(厳密には違う)
 普段会うこともない人物からの呼び出しに緊張と恐怖で体が硬直。二日連続の宿舎で少しヨレ気味のスーツを気持ちだけでもキチッとして、秘書に通され官房長官室に入る。

「失礼いたします!!」
「ああ。来ましたね。ささ、座って頂戴」
「は、はい!!」

 がちがちのナナコに笑う官房長に、もしかしてクサい!?と場違いな事を思ってしまった。ちゃんと風呂は入ってる。シャツはちょっとあれだけど……。華の二十代。これは言いすぎだが、女として大丈夫かとナナコは別の意味で不安になった。

「ケーキでも食べるかい?」
「えっそのっ」
「あれ?ダイエット中?ごめんねぇ。デリカシーなくて」
「いえ!!違いますから!」

 遥か格上の上司の前で物を食べることに戸惑い、でも上司から良心を無下にすることは出来ない。慌てふためくナナコの前にお茶が置かれた。ケーキはない。少しだけホッとする。
 ……。本題はこれからだ。

「急に呼び出しちゃってごめんねぇ」
「いえ。大丈夫です」
「それで君に頼みたいことがあるんだけど」

 皇族の隠し子がスペインで行方不明になったから捜してきて欲しい、とサラッと言ってしまった。

「は……。今、なんと…」
「だから皇族の…」

 天皇や皇族関連の仕事を担当する部署(警察庁警備部警衛課警衛第1係、第2係)があるのに、一介の巡査に話していいことなのか。しかも隠し子、と危ない単語も含まれているような。極秘で重要な話を聞いといて、「仕事が溜まっているので無理です」なんて言わるわけがない。それがわかっていてワザと官房長は話した。
 最初からナナコに拒否権はない。

「プライベートジェット機を用意してるから今すぐ行ってきてね」
「……」
「あ、一言でも外部に漏らしたら君のクビが」

 官房長が手を首の前で横に振った。

「行って参ります!!」
「はい。気を付けてね〜」



世の中って泣きたいくらいに理不尽に出来ている

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