Kiss in the dark

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 緊急指令で半ば強制的にプライベートジェット機に乗せられたナナコは、皇族の子息(隠し)が消息を絶ったとされる、ヨーロッパに向かっていた。長いフライト時間なこともあり、十分な睡眠もとれシャワーも浴びて、出国する時よりもすっきりした顔つきになった。それでも今回出された指令が重くのしかかり、顔色がいいとは言い難い。

『…吐きそう…』

 地元警察署の前でナナコは立ち尽くしていた。

 さかのぼる事数時間前。詳しい話は別の人間から聞けと、スペインの日本大使館に一人置き去りにされたナナコ。そこで更なる要件を追加される。
 観光客に成りすまし、皇族子息を極秘で探し出せと。観光客に成りすますのは、いろいろと面倒な事態を招かないための予防策らしい。
 スッタフから渡された衣服を身に纏ったナナコは彼らの思惑通り、どこをどう見ても警察官には見えない。もともとの童顔も手伝って、彼女は女子大生、下手したら女子高生に見えるかもしれない。彼らが作成したナナコが成りすます人物のマニュアルまで貰った。

『ナナシナナコ。年齢20歳。○○大学の××部に通う三年生。親戚がスペインに引っ越したので、観光のついでに訪ねにきた。ドッキリなため親戚はそのことは知らない』

 まだ色々と書いてあったが読むのを止めた。取り敢えず、ご子息を捜しに来て、自分が刑事だと話さなければ済むのだ。
 可愛い服装とは裏腹に、鞄に入っている銃弾と太腿にガーターベルトで留められたピストル。人捜しでこの装備は物騒すぎるとも思ったが、もしもの時に備えてマフィア対策が含まれているらしい。
マフィアと出会いませんように。心の中で呟いてナナコは日本大使館を出た。

 子息が持っているGPSは半径2km以内に入ると、ナナコに支給された携帯画面に表示されるようになっていて。子息と連絡が途絶えた村まではドコかわかっている。
 地名を聞いてバスで行くはずのナナコだったが、早速迷子になった。まずはバス乗り場を捜さないと。偶然にも近くにあった警察署に寄ったナナコ。そして冒頭に戻る。

『吐きそう…』

 嘘をつくことが苦手。すぐに顔に出てしまう自分がどこまで身分を隠し通せるだろう。ピストルを身に着けたまま、警察署に入って行く勇気はなかった。

「お嬢ちゃん?」
「ひっ!!」
「おっと。驚かせてごめんよ。あはは」

 早速、警察官のお出まし。もしやピストルを所持しているのがばれたのか。あはは、と笑い続ける警官に警戒するナナコだったが、警官の一言に肩の力を抜いた。

「迷子かい?」
「っ!そ、そうなんです!!」
「そんな力まなくてもよ。オレは逃げないぜ」
「すいません」
「で、どこにいきたいんだ?」
「村に行きたくて、バスを捜していたら迷子になりました……。バス乗り場ってどこですか?」
「?村って、あそこの事か?」
「はい!!」

 あんな片田舎にお客さんが続けて来るなんて珍しい日だ、とぼやく警官。言っている意味がわからず首を傾げた。よっぽどのド田舎なのだろうか。

「ちょうどよかったな。一緒に乗せて貰え」
「えっでもっご迷惑では…」

Hey!!Fá cil!! (おい!!止まれ!!)」

 タイミングよく駐車場から出てきた車を呼び止めると警官は駆け寄る。一言二言運転手と話しナナコを手招きした。

「この子もその村に用があるんだとよ」
「カーボーイの次はニンジャかぁ?」
「はい?」
「まぁいい。早く後ろに乗んな」
「お願いします」

 運転席とは逆側の扉を警官が開けてくれる。ナナコが軽くお辞儀をすると、警官は少しだけ目元を弛めた。
 彼女が乗り込み、扉が閉まるのを確認すると発進する車。警官が見えなくなると、隣にいる男に目を向けた。男もナナコを見ていたのか絡む視線。なかなか視線が逸らせない。

「……」
「……」
「……」
「……」
「「…私/俺は…」」

 声が重なり笑ってしまった。

「レオン・S・ケネディ。君は?」
「ナナコ・ナナシです」



予期せぬ同乗者

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