Kiss in the dark

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 無意識なのか、それとも意図的なのか。ちらちらとこっちを見てくるレオンにナナコは色んな意味で息が詰まりそうだった。
 口を開かなければ、ボロも出ようがない。でも終始無言なわけにもいかない。話し掛けられませんように、と心中で祈っていたが願いは届かず。おしゃべりな運転手は無愛想なレオンに飽きて、今度はナナコに話を振ってきた。

「アンタはあの村に何しに?」
「親戚に会いに来たんです」
「ほぉ。そりゃぁまた遠くから。アンタ、日本人だろ?」
「はい」

 親戚に会うのが楽しみで仕方がないといった感じに頑張って笑顔を振り絞っているが、口元がぴくぴくしている。
 山奥へ進んでいく車。辺りは重たい霧が立ち込めており、どう見ても観光に来るような場所ではない。いかにも、な雰囲気がナナコを場違いな気分にさせた。カンペには観光できたついでとあったが、観光は口にするのは止めよう。絶対にボロが出る。
 この狭い車内。聞きたくなくても話が耳に入ってしまう。隣の男が「人捜し」と言った瞬間どれだけ冷や汗が流れた事か。レオンがどう考えているかはナナコにはわからないが、少なくもレオンが同じ、もしくは警察に近い人だとすぐに理解した。
 アメリカの警察組織の仕組みは日本と同じく複雑だ。FだかCだか。どれにしてもナナコにとって好ましい相手とは言えない。好き嫌いの感情ではなく、彼女の現状から考えて。
 不自然ではない程度に右太ももの上に、横に置いてあった鞄を乗せた。

「大学生が1人で旅行か?」
「っ」

 目ろみ通り、大学生に見られたことを喜ぶべきか…。しかし話しかけてきたのは、今、警戒しようと考えたばかりの人。ナナコの表情は更に引きつる。

「大学生が1人で旅行するのはおかしいことですか?」
「いや、そういうわけじゃないが…よく親が許したな。まだ20にもならないだろ?」

 ピキ。別の意味で引きつる口元。思わず本当の歳を叫びそうになったが飲みこんで…。

「20です!!」
「……。ほら、その年代って曖昧だろ?」
「………」
「すまない」
「別に気にしていませんから」

 プンとわかりやすく顔を反らせば、レオンは話しかけてこないだろう。
 霧で覆われている景色はどこもかしこも木ばかりで、同じに見えた。

「っ!?」

 走る車窓から見えた風景に一瞬だけ人が映る。ただの人ならば何も気にすることはないが、ナナコの見間違いでなければ、その人は手に刃物を持っていた。ゾクと背筋を走った悪寒。急にここが、ナナコが住んでいた町村と重なって見えた。

『こんな不気味じゃないし…』
「ナナコ?」
「あっ。はい…」
「今、なんて…」
「いえ。まーちゃん。あ、親戚のことなんですけど彼が元気かなぁって」
「ああ、早く会えるといいな」
「はい」

 佐波雅博、皇族子息の名前なのだが。とっさに子息の名前からとって「まーちゃん」と言ってしまった。レオンがその関係性に気付くことは決してないだろう。
 苦い顔を隠すために出した笑みは、普段からナナコがしている笑顔だった。



嫌なモノは全てイツワリで塗り潰した

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