Kiss in the dark

□03
1ページ/1ページ



 1998年。発端はアークレイ山地での猟奇殺人事件。この裏にはアンブレ社のウィルス実験が絡んでいた。T-ウィルスがラクーンシティーに流出。人は次々とゾンビ化し市全体が地獄となった。その地獄を生き抜いた人間が数人おり、レオン・S・ケネディもその一人だ。彼にとってあの事件は人生最大のトラウマかもしれない。
 自体を重くみた大統領及び連邦議会は市全域の「滅菌作戦」を実行に移し、ラクーンシティーは跡形もなく消え、政府はアンブレ社に対し業務停止命令を発し株価は暴落。事実上の崩壊となった。
 脳裏に焼き付いた悪夢でも人々の記憶は段々と風化していく。レオンのトラウマは第三者にとって、ニュースの一コマでしかない。
 あの事件から六年。大統領の命で特殊訓練を受けていたレオンは大統領の一家を護衛する任務に就くはずだったのだが……。肝心の護衛する大統領の娘が攫われた。
 六年前は出勤初日に失職。今回は護衛が救出に。相変わらず運はよくないらしい。悪運は強いが。




「…ったく貧乏くじだぜ」

 人捜しのために割かれた人員は二人。最近、不気味な噂ばかり聞く村に行く羽目なった警官は愚痴ばかり呟いている。聞いているこちらが滅入ってしまう。
 助手席の男は後ろを振り返った。
 
「あんた一体何者なんだ?」
「アメリカからわざわざご苦労なこったな?」
「…ご挨拶だな。用件は聞いているだろ。迷子の娘の捜索だ」

 一瞬話すのを躊躇ったが、重要な部分は伏せてあるし。見るからにナナコは一般人だ。それに彼女は話に割り込むようなことをしなかった。

「一人でか?」
「男三人でこんな山奥にパーティでもないだろう……お前らならやりかねないか…」
「ハッ。変なヤツだぜ。まぁ署長の命令でしょうがねえけどよ…ちょろい仕事じゃねえな」
「頼りにしてるぜ」

 レオンとの会話に飽きたのか、それとも無愛想な反応がつまらないのか。レオンから横にいるナナコに興味が移る。よくしゃべる男だ。
 無意識にナナコを観察していた。初対面の女をジロジロ見る事など普段はしないが、どうも彼女が気になる。遠き日の記憶の先にある赤い衣装の女と同じ人種だからか……。ぎこちない笑い方と不自然な態度が目についた。

 あまり不躾に見るのも失礼だと視線を外し。車の窓枠に肘を乗せ流れていく風景を無関心に眺める。レオンは小さく息を吐いた。

「ケネディさん?大丈夫ですか?」
「?」
「酔い止め、飲みますか?」

 東洋人は幼く見えると噂では聞いていた。確かにそうだ。現にレオンはナナコを20歳以下だと発言して機嫌を悪くさせた。あからさまに怒ったかと思えば、今度はレオンが車酔いをして体調を悪くしたのか心配している。忙しい娘だと思うが、その気遣いは嫌いではない。

「大丈夫」

 その言葉にナナコは笑った。やっぱりどこかぎこちない。出会って数時間も経たない人間に聞くのも可笑しなことだが、「何かあったのか」と問いそうになる。

「こっから先が例の村だ」

 吊り橋を越え、タイミング悪く止まった車に二人の会話は途切れた。

 霧が濃くよく見えない。様子を見てくるため降りると言ったレオンに男は「駐禁とられたくねぇし俺らは車を見張っておくぜ」と自分たちは降りない意思を示す。こんな場所で駐禁をとられるはずがない。

「駐禁、か」
「頼んだぜ」

「あの…」
「あ、なんだ」
「ありがとうございました」
「いいってよ。なんなら親戚んちまでオレらが送っていくか?」

 180度も違う警官たちの反応にレオンは深く息を吐き出す。

「彼女は俺が送っていくから問題ない。アンタたちは車を見張ってろ」
「「……」」
「また後で。ナナコ、行くぞ」
「えっっあのっ」

 レオンはナナコの手を掴んで車から降りた。



下心が丸見えなんだよ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ