Kiss in the dark

□05
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 勢いでナナコを連れてきてしまった。レオンの立場上、軽々と任務を口にすることはできないが、ほんの少しくらい彼女に時間を割いてもお咎めはないだろう。それに親戚が住んでいると言うのだから、送って行ったついでに何か情報を聞き出せればいい。
 だいぶナナコは空気が読める娘らしく。電話が鳴れば会話が聞こえない程度に距離を開き、民家に入ろうとすると無言で立ち止まった。
 気遣いも出来て、常に一歩下がり後ろを歩くナナコに苦笑いがこぼれる。

「ナナコ。気を遣いすぎだ。もっと楽にしたらどうだ?」
「?気遣いしているつもりはありませんけど…」
「……。その固い喋り方も気になる」
「すみません。これはクセですから」
「……」
「急いでいるんですよね?中に入ったらどうですか?誰かいるかもしれませんし」
「まぁな…」
「じゃぁ行って来てください」
「…ここにいろよ」

 ナナコは返事の代わりに、にっこりと微笑んだ。

 異様に薄暗い民家に入り奥に進んでいく。階段に繋がる手前の部屋に住人がおり、かまどの灰を掻きだしている。レオンが声を掛けても気づく気配はない。
 ポケットに入っている写真を取り出し、更に近づいた。流石にここまでよれば、村人も気づいた。のっそりとレオンを振り返る。

「この娘の事を知らないか?」
「ーーっ!」
「お邪魔のようだな。出ていくよ」

 生憎スペイン語は教養語ではないレオンは村人が何を言ったのか、わらない。でも歓迎はされていない。おもむろに立てかけてあった斧を掴み、レオンに近づく。

「動くな!止まれ!!」

 ハンドガンを取り出し、威嚇射撃を行うが、村人は止まらない。一度目は肩を狙って撃つ。まるで痛みを感じないと言うように、斧を振りかぶった村人に、レオンは脳天に銃弾を放った。
 倒れた村人。強いデジャヴに頭を抱えたくなる。木枠の隙間から外を覗くと、周りには数人の村人。車をジャックされた警官の叫び声と爆発音が聞こえた。
 視線を彷徨わせるが、ナナコの姿はない。連れて行くべきだったと後悔したくなるが、立ち止まっている暇はない。1時間も経たないうち本日二度目の連絡に通信機を取った。

『どうしたの、レオン?』
「村人に襲われた。この村で間違いなさそうだ。外にも2,3人いる。囲まれたみたいだ」
『包囲を突破して村の中心に向かって。発砲許可されているわ』
「わかった」
『ちょっと待ってレオン』
「なんだ?」
『神妙性がないから何とも言えないけど。数日前、大統領にアポなしで尋ねてきた男がいて、その男は自分を皇族だと言っていたのよ。それでターゲットが消えた日と同刻に男も消息不明に』
「そいつが犯人だと?」
『わからない。でもそっちにいる可能性もあるわ』
「特徴は?」
『男で身長は170前後。日本人よ』
「……。わかった」

 通信を切ったレオンは包囲網を突破し、村の中央へ向かう。ナナコが居た場所にオイルライターが落ちていた。手に馴染むそれを、カーゴパンツに仕舞った。

「……日本人。…偶然にしてはタイミングがよすぎる」

 日本人。その単語が頭に張り付いて取れない。怪しいを前提にナナコを振り返ってみると、不自然な点がいくつも見えてきた。年齢に合わず妙に落ち着いたあの態度。気遣いでした行動もレオンが何者かと知っているからこそしたと思えば不思議ではない。
「ここにいろ」と言ったとき、ナナコが何も返さなかったのは、はじめからトンズラするつもりだったから。
 敵にしろ味方にしろ。厚い雲が覆いかぶさった、この村にナナコのいでたちは、不具合で浮いていた。

「次会ったときに聞けばいい」

 はたして、いつナナコに会えるだろうか。彼女の安否を気にしてしまうあたり自分はまだ甘い。ナナコが敵ではない事を頭の片隅で祈りつつ、アシュリー捜索を開始した。



憎悪と狂気で渦巻く村に哀愁をひと滴垂らした

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