Kiss in the dark
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「iAhí eatá!」
「っ!!なんなの!もうっ!!」
いつから自分はクリーチャーに好かれる体質になったのか。一歩、民家の外に出ると待っていました。と言わんばかりにナナコに襲いかかる村人たち。一番ひどいのはチェーンソーをもった男がもう一人追加されたことだ。嬉々と追いかけてくる男から全速力で走り、再び民家に飛び込んだ。
近くにあった棚をスライドさせ、扉の前に移動させる。外からの衝撃に耐えているが突破されるのも時間の問題だろう。
スカートをたくし上げピストルを取り出す。果たしてチェーンソー男たちにこれで太刀打ち出来るか。諦めにも似たため息は出るが死ぬ気はない。
「男の人に追い掛けられたことないのに…」
熱烈な歓迎だわ、と呟いたナナコに少ないなりにも余裕は出てきた。
部屋の奥には(といっても広くはない。)コンロがあり、ガス栓を抜く。ものの数分もしないうちに、家はガスで充満される。二階に上がり、窓の近くで下を見渡せる場所に立った。
外から梯子を使って上がってくる村人に気が焦る。最低でもチェーンソー男二人はこの方法で倒したい。
「……」
ブオンブオンとモーターを唸らせ、壁を突き破ってやってきた。
「!!」
銃口を下に向けて放つ。ナナコの予定では、銃口の火花がガスに点火して、大爆発するはずだったのだが…。映画のようにはうまくいかないらしい。冷や汗が背中を伝った。
ゴーン ゴーン
鐘の音が鳴り響く。心臓の奥底を揺さぶる音は、心地良いものには思えない。村人たちは心酔した表情で、音の元に向かっていく。ナナコは二階から、その様子を唖然と見ていた。
「……助かったぁぁ」
窓に額をつき、深いため息を溢す。窓ガラスが白く曇った。曇ったガラスを手で拭いて…。
「っ!?」
見覚えのある背格好にナナコはしゃがみ込み、息を止める。もし姿を見られていたら、なんと言い訳すればいいのか。見つかる前に隠れたつもりだが、不安になる。ベルトにピストルを仕舞い、しばらくジッとしていた。
PPPッ!!PPPッ!!
「っ!」
画面に映った点滅する赤い丸印は、子息が2km以内に居ることを告げていた。すぐに出て追いかけに行きたいのだが、レオンに鉢合わせするのは避けたい。
下に降り、裏手から出る。画面を見つめると、いつの間にか丸印は消えていた。
「あっ……。でも道は覚えてるから大丈夫…」
方向感覚のないナナコが、記憶だけで地図上の場所に行けるわけもなく、道に迷い途方にくれる。
適当に歩いていると頭上から岩が降ってきて、何メートルも追い掛けっこした。ふかふかのクッションがあるわけでも、まして岩はハリボテではない。冒険映画のような目にあったナナコは精神的に疲れた。
PPPPP
「はい…」
『少し遅くなりま……なんですか。その酷い顔は…』
「……帰国したら刑事やめます…」
『……。それは貴女の勝手ですけど、任務はきちんとこなしてくださいよ』
「ペペさんって冷たい…」
『はぁぁ……。好きな食べ物はなんですか』
「食べ物?なんで今…」
『いいから』
「……。揚げ出し豆腐?」
『うわ。ババクサいですね』
「っそれっ全国の揚げ出し好きに喧嘩売ってます!?」
『全国って大袈裟な。でも…』
「?」
『嫌いではありません。帰ってきたら、居酒屋に行きましょう。僕のおごりです』
「えっ…」
『……』
「ペペさん?」
『報告してください』
「あ…はい」
ツンデレが懐いた気分になったが、ナナコの迷子になった発言に激しく貶された。地図があるのに迷子になるなんて子供ですか!!うんたらかんたら……。
『とにかく早く見つけてください。噂では合衆国のエージェントもそちらにいるみたいです……。会ってませんよね?』
「あはは」
『……見かけたんですね』
「たぶん?」
『色々と面倒なことになりますから、絶対に、絶対に素性を明かさないでください。もしUSBがあちらに渡ったら……』
「はあ……。ピストル持ってるのを見られたらどうすれば…」
『護身用とでも言ってください。では』
「えっええ!!」
迷子になったナナコに救いの手もくれず、ペペは通信を切ってしまった。
→真っ直ぐ行けばいっか