Kiss in the dark

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 村を見渡せる高い場所を尋ねようと人を捜した結果。ある廃村にたどり着いた。まともな人間が1人でもいるだろうと考えた自分が間違っていたのか。「あの…」と声を掛けるたびに襲われ、ナナコは気力も体力も削られていく。
 ナナコが通ってきた道は、すでに誰かが進んだ後らしく戦いの残骸しかない。村人を殺さないで済むのは嬉しいが、タンパク質が焼ける臭いや生臭さが混ざった死体の中を進むのは容易でなかった。何度、吐き気を催したことか…。頑張って堪えたのは、女としての意地があるのか…。ただ胃が空っぽだからなのか。前者であって欲しい。
 比較的、丈夫そうな民家に足を踏み入れた。万が一、人が居た時のためにピストルはスカートに戻し、異常な村人対策に近くにあった箒を掴む。

「……はぁ…」

 村人以上に合衆国のエージェントである(仮定)レオンに警戒しているナナコがいた。
 カツカツと音を発てるショートブーツが恐怖心を煽る。自分の足音なのに……。なるべく足音を立てないように歩いていたら、何もない所で躓きこけた。

『うわっ!?』

 ズサーと箒を手放し、顔面から転んだナナコは、恥ずかしさと痛さで動かなくなる。
 誰も見てなくても恥ずかしいものは恥ずかしい……。

「おいおい。ドジだな」
「ナナコ。大丈夫か?」
「えっ。レオン、知り合いか?」
「あぁ」
『最悪…』

 聞き覚えのある声。穴があったら入りたいとはこの事。このまま消えてしまいたい。うつ伏せになったまま、固まるわけにもいかず、重たい体を動かし起き上がった。
 顔は真っ赤(ぶつけた衝撃と羞恥心)、涙目のナナコを見て、二人は思うことがあるのか視線を反らす。

「俺はルイスね。あんた、ドジだけど可愛いな」
「……。ナナシです」
「名前ならさっき、レオンが言ってただろ?ナナコって呼ぶぜ」
「………。はぁ…。今解きますね」

ズルズル
「ナナコ!!しゃがめっ!」
「?!」

 ヒュンと真横に振られる斧。あと少しレオンの言葉が遅かったらどうなっていたことか。逃げ遅れた髪の毛数本が床に落ちた。
 拘束されたレオンとルイスよりも、近くにいるナナコを標的に選んだようだ。

「ナナコ。逃げろ」
「っ。その状態でどうやって戦うんですか」

 仕事上、ピストルを所持することがある。反射的に後方に伸びた手を慌てて正し、落とした箒を拾い、柄の方を男に構える。木刀や竹刀に比べれば軽い。ナナコの腕ならば男の手から斧を落とすくらい容易い。
 振り下ろされた斧を避け、小手に強く柄を叩きこむと反動で斧を落とした。

『やぁっ!!』

 食い込んだ斧を拾い上げようと、体勢を曲げた男の胴に柄を叩きこんだ。男はまだ死んでいない。レオンの前でピストルを出すことは出来ないが、時間は稼げた。

「取れましたよ!」
「「っ」」

 華麗な箒さばきに唖然とした二人。拘束具を解かれると、ルイスは逃げだし、レオンはハンドガンで脳天を打ち抜いた。

『……容赦ない…』
「ナナコ。助かった」
「あっ。いえ…」

 通信機を取り出したレオンに背を向けた。




今のうちに逃げよう…

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