Kiss in the dark

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「ちょっと手が離せない状況で連絡が遅くなった」
『本当に大丈夫?』
「ああ。大丈夫だ。連中に捕まっていた男からの情報だ。アシュリーは教会にいるらしい」
『その男はどうしたの?』
「ここから逃げた」
『教会の場所はわかるの?』
「いや。村のどこかに隠し通路があるようだ。とりあえず村に戻ってみる」

 味方か敵かわからない以上、ナナコに通話の内容を聞かれるわけにはいかない。彼女が部屋を出ていく姿を片目で追いながら、ハニガンと連絡を取った。
 剣術はレオンが舌を巻くほどの腕前だ。しかし何もない所でこけた姿をみてしまったら、ナナコが凄腕のスパイ、スパイにないにしろ、レオンの不利益になるような人間には思えない。ただ自分が思いたくないだけなのか……。
 すぐに追いつくだろうと、ナナコを野放しにした。

「ハニガン。一つだけ調べて欲しい事がある」
『?』
「日本の警察ベースにナナコ・ナナシがいるか問い合わせてくれないか」
『また突然…。わかった。次の連絡までには調べておくわ』
「助かる」

 民家を出ると、入り口付近にナナコはいた。案外近い場所にいて、拍子抜けするが、手間は省けた。後ろから逃げないように腕を掴むとナナコは小さな悲鳴を上げる。

「ひっ…ケネディさん!!お、驚かせないでください」
「悪い」
「……」
「……」
「あ、あのどうしてここに?」
「それはこっちのセリフだな。俺より先に出ただろ?」
「………。迷子になりました」
「……ふっ。なら俺と一緒に来ればいい。その方が安全だ」
「うぅ…。ど、どこに行くんですか?」
「取り敢えず、村に戻る」

 村に戻ると言いながら、逆の方向に歩み出したレオンにナナコの足は止まる。

「ナナコ?」
「村に戻るのにどうしてそっちにいくんですか?」
「それくらいはわかるんだな」
「わ、わかりますよ!!」
「鍵を取りに行く」

 なら一人で行け、と叫ぶナナコは無視。未だに掴まれた腕にため息をついた。
 
「わかりました。一緒に行きますから手を離してください。それだと、戦いにくいでしょう?」
「……転ぶなよ」
「転びませんっ!!」

 渓谷の集落は、先ほど通ってきた村よりも更に密集しており、村人もたくさんいるようだ。立てつけの悪そうな家と隙間だらけの橋。一歩でも足を踏み外したら谷の底へ真っ逆さま。高台から二人を見つけた村人が警告をならし、続々と集まってくる。
 先に進むには、二か所に設置された鍵を取ってくる必要がある。ここからでも、鍵の在り処はみえた。
 ナナコを背中に隠しながらでは効率が悪い。レオンもそれは重々承知だが、ナナコを一人にはしたくない。できないではなく、したくない。

「別々に動いた方が」
「俺から離れるな」
「でもっ」
「いいから離れるな」
「……」

 強い眼差しと、言い方にナナコは何も言えなくなってしまう。
 話をしている間にも、村人は待ったなしだ。上を飛ぶダイナマイト。空中で爆発したそれは、二人の間を爆風で裂いた。

ドォン!!

「うっ。ナナコ!」
「大丈夫ですからっ!!ケネディさんはそちらのを取ってきてください!」
「っ。ああ!」

 左右に分かれた二人。前にいる敵を攻撃しながら走っていたため、気付いていなかった。なぜか、レオンを追い掛けてくる敵はいない。鍵を手にし、ナナコがいる向こう側を見ると、村人が集結していた。レオンをみた村人も居るが、まるで興味ないといった様子でナナコに走っていく。

「どうなってるんだ?!ナナコ!!」
「ケネディさん!!」
「っ。突破できるか!?」
「いけます!」

 幸いレオン側には村人はいない。吊り橋を使うようにジェスチャーで指示すると、レオンは橋の向こう岸で待機。先頭を走る ナナコは村人をぞろぞろと引きつれてやってきた。
 一気にかかる重さに橋を吊るロープは徐々に引き伸ばされる。プツンプツンと音を発て、一本また一本と切れていく。ナナコの腕よりも太いロープは、重さに耐えられず遂に切れた。

「跳べ!!」
「っ!!」

 合図でジャンプするが、勢いは抑えられない。跳んでくる彼女を体全身で受け止め、ドサッと倒れるレオン。うめき声に起き上がろうとしたナナコの頭を胸に押し付ける。

「えっ…」
「アイツらは君の追っかけか?」

 パンッパンッ
 這い上がってきた、二人の村人を撃ち抜いた。

「……。笑えない冗談やめてください」
「確かに。笑えないな」



胸に抱き留めた彼女はおひさまのように温かかった

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