Kiss in the dark

□10
1ページ/1ページ



 ボディスーツで強調される鍛えられた身体。日本人にはない色合いで、自然の光に当たればさぞかし綺麗に輝くであろう髪の毛。迷いを感じさせない露草色の瞳。
 井戸から出る際に、ナチュラルに差し出された手。映画のワンシーンのように、繰り広げられるアクション。レオンにときめくな、という方が無理だ。

「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です…」

 レオンの後ろを歩きながらナナコはため息をつく。どんなにチャンスをうかがっても離れる隙がない。現に今も、一歩半後ろに下がっただけでも、レオンは目敏く立ち止まりナナコを見つめる。
 ちょっとした行動でも高鳴ってしまう鼓動を押さえつけ、聞こえない程度に、もう一度深くため息をついた。
 このまま、一緒に居ると絶対にボロを出す。自分と居ることでレオンが危険な目に合ってるのも目に見えていて、自分のためにも。レオンのためにも早く彼から離れたい。

「ナナコ?」
「あ、はい。大丈夫ですから行きましょう」
「……」
「ケネディさん?」

 先に行こうとしたナナコの手を掴む。少し強めの力に顔を歪めた。

「……君が何者でも俺の気持ちは変わらない」
「え……」
「一緒にここを出るんだ」
『……そういう意味…か…』
「?」
「あ、いえ。別に一人でも大丈夫ですから…」
「何もない所で転ぶのに?」
「もうっ!そのネタ持ってくるのやめてください」
「なら、ファミリーネームで呼ぶのもなしだ」
「……に、日本人ってシャイなんですよ」
「名前は関係ないだろ?ナナシサン?」
「うぅ…意地悪いですね、ホント」
「そうか?」
「そうです。レオン……やっぱレオンさんにしときます」
「先は長そうだ」

 少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。

 自分が笑っていることに気付いたナナコは表情を引き締める。どんよりと重たい空気。
 今まで見てきた民家とは違って、豪勢な造りの屋敷。異様な静けさが、嵐の前日に感じられて、逆に不気味だった。何かがここに居る。
 鍵を取り、先に進むレオンに声を掛けた。

「気を付けてください」
「ああ……ナナコはここに」
「はい」

 扉の向こうに消えたレオンに胸騒ぎが。10秒も経ってないかもしれない。ナナコは扉を開けた。

「レオンさん!」
「同じ血が混ざったようだ。だがお前は所詮よそ者。覚えておけ。目障りになるようなことがあれば、容赦はしない…」
「同じ血?」

 首を掴まれ、投げ飛ばされたレオンの背を支えながら、男を見上げる。

「……お前は」
「なんですか」
「甘く芳醇なこの香り…。さしていうならば、虫に集られる蜜」
「言っている意味が…」

 問いかけに応えることなく行ってしまう男。腰のポケットから、男には不釣り合いなものが、ぶら下がっていた。

「…海老?」

 見間違えでなければ、あれは食品サンプル。細かく食品をいうと、海老の寿司。今の時代、色んな形のUSBメモリーがあると聞いていたが。食品サンプルを纏ったUSBもあったような。海老の尻尾をとれば、パソコンに差せたり…。金の鯱型は見たことがある。

「待って!!」
「ナナコ?!」
「離してください!!」
「ダメだ。どうしてもって言うなら俺を撃つしかないな」
「……」

 レオンに突き出されたハンドガンをナナコは無言で見つめた。



撃てるはずがない…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ