Kiss in the dark

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 ハニガンの調べによってわかったことは二つ。
 一つ目は、ここの地方に古くからある宗教集団ロス・イルミナドスが絡んでいる事。噛みそうな名前にレオンは鼻で笑った。
 二つ目はナナコの情報。ハニガンも情報収集で多忙だろうに、レオンが考えていた以上に情報があって、流石としか言いようがない。

『あと、ナナコ・ナナシの事だけど。レオンの推測通りに彼女、警察関係者よ』
「予想通りだ」
『しかも、警視庁の刑事。新人だけど美人でデキる若手だって評判は上々らしいわ』
「それは予想外だ……。ラクーンシティなら、彼女の方が立場は上だな」

 添付で送られてきたファイルを開くと、警官の制服に身を包んだナナコの写真が表示される。きっちりと結わえた髪の毛と、控えめな化粧。真っ直ぐ、先を見つめる焦げ茶の瞳は、彼女を大人の女性に見せて。隣にいるナナコとは印象がまるっきり違う。
 本当の歳を聞いたが、それだけはしっくりこない。アジア人の年齢はわかりにくい。

『今は休暇中。もしかして、彼女そこにいるの?』
「ああ。刑事だとは名乗っていないが、動作が少し目についた。腰に武器をぶら下げているのは、警官ぐらいだろ?」

 ルイスと二人で拘束されていた、小屋での出来事。ナナコは起き上がり、咄嗟に腰に手をやるとハッとした表情になる。レオンにはあの動きが警棒か拳銃を取り出す動作に見えた。

「親戚に会いに来たとは言ってはいるが嘘だろう。引き続き調査を頼む」
『わかったわ……。ターゲットのことはどうするの?』
「大統領の事は伏せてある」
『敵なの?』
「わからない。だが、監視はしておく」

「同じ血」と「虫に集られる蜜」両方とも意味は分からない。しかし、ナナコを襲う村人の様子は、樹液に集まる虫のようだった。甘い蜜を求めて彷徨う虫。彼らは生きるために、樹液を吸う。では、ナナコを襲う村人は?考えても答えはわからない。
 
 目的地の教会についたが、鍵がかかっており二人は足止め状態に。手がかりは湖にあるらしい。岸壁に張り付く形で、つくられた橋は、長期間雨風にさらされたせいで今にも崩れ落ちそうだ。ところどころ、板が無い。先に飛んだレオンはナナコを見遣る。

「ナナコ。渡れるか?」
「いけます」
「……」

 墓地で起きたハプニング。前以って言っておくが決して故意ではない。ナナコの太腿には本来なら、ありはしないベルトがあった。レオンはすぐにこれがホルスターだと気付く。
 警戒心と疑惑は強くなる。敵か味方か。選択肢を誤れば、アシュリーを危険な目に合わせるだろう。私情を挟むな。客観的に視ろ。自分に言い聞かせる。
 空を眺めていたナナコは、どこからみても普通の女だった。やっぱり女運も悪いのか?浮き出た疑問に嘲笑する。

「きゃっ」
「ナナコ!」

 考え事していたレオンは悲鳴で、我に返りナナコに手を差し出す。

「危なっかしいな」
「すみません」
「……」
「……」

 互いに思うことがあるのか、湖につくまで会話はなかった。



 水面に浮く一艘のボート。あちら側に気づかれないようレオンは双眼鏡片手にうつぶせになり、ナナコは近場の岩場に身を隠した。
 ボートから死体が投げ込まれると、下に出来る魚影。魚影は段々と色濃くなる。姿を現わしたソレは死体を飲み込み、飛び上がった。

「っ!!」
「ナナコ、見えたか?」
「はい……薄らと…」
「どうやら、あれを倒さないと先には進めなさそうだ」
「オオサンショウウオって日本の一部では天然記念物なんですよ。なんかトラウマになりそうです」
「あれは違うだろ」
「ですよね……」

 岸につけてあったボートに乗り込むレオン。ナナコも乗り込もうとするが、レオンが手で遮った。

「一人で行く」
「……。わかりました」
「ここにいろよ」

 最近気づいたことだ。YESかNOで答えられる事をナナコは答えを返さない。その上、NOの場合は笑って誤魔化す。
 笑ったナナコに姿を消すとわかっていても、レオンは何も言わなかった。

「かけてみるか…」

 ボートを走らせながらつぶやく。
 再び湖畔に戻って居たら、不審を抱くのは止めにする。いなければ………。それまでの関係だった、というだけだ。もしナナコがレオンに不合理な相手だった場合、後者の方がいいのだが。前者であることを願わずにはいられない。
 レオンが最後に振り返ったときには、ナナコの姿は既になかった。




期待するだけ無駄ってか……

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