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□閑話夢主
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ふわふわとした感覚で今私が見ているのは見慣れている筈の自分の部屋で…しかし、普段なら絶対にあり得ないような位置から室内を見下ろしている私がそこにいる私を見つけたとたん
急に意識がグンッと引っ張られるようにそちらに向かい



『……』



眺めているニュースを見ながら、いい加減なんの面白味もないこのニュースにも飽きてきたな…なんて今初めてみた筈のそれにそんな思考を巡らせつつ
でも、何処かでみたことのあるような内容に頭を捻りながらも
この前借りてきたDVDでも見ようと考えるもう一人の私がテレビの前まで移動する動きが
覚束ない動きで手をついて進むのを感じて、あ、今私酔ってるんだ…そう理解したは良いが、今の私ではそれをどうにかすることもできず。しかし、直前よりは近くなったように感じるもう一つの思考をもって

腰を下ろした目の前で流れている某子供服チェーン
店のCMを見てふと、あることを思い出す。



『そう言えばそろそれ友達に子供生まれるんだった。』



お祝いをどうするべきか…現金、が一番の良いのは分かっていても何となくそれでは寂しい気がして…
そう考えながら、完全に独り言のつもりでしゃべっていたそれに反応を見せた人間がいて…



「俺の兄にも産まれる。」


それを受けて振り向いた私がその人を視界に入れた途端、分離していた筈の二つの私がすんなりと同化していくのを感じる。



『そうなんですか?おめでたいですね。』



そう言いながら距離感覚の無くなった覚束ない手でDVDをガチャガチャさせながらセットして、枠から少しずれた状態で閉まるボタンを押す。
まぁ、それでも何とか入ったななんて考えていた私はそこでふとあることに気がついて斎藤さんの方を見る。



『……兄?』

「なにかおかしいか?」

『あ〜…えっと、私勝手に斎藤さんは長男だと思ってました。』



飲みすぎて幻聴が聞こえたのかと思ったが、どうやらそうではなく。斎藤さんには正真正銘お兄さんがいるらしい。
だって、名前が…ね。

その思考を読み取ったように少しばかり照れたように口を開く。



「元日に産まれたのだ。」

『あはは、安易ですね。』


思わず笑いと本音が漏れてしまったのは多分お酒のせいだろう。

それを受けてムッとした表情を浮かべる斎藤さん。
日頃の彼がこんなにあからさまに感情を表に出すことは無く、これも酔っているからこそ見られる一面なのだろうと言うのはわかるのだけど…
その表情があまりにも子供じみていて可愛くて…



『怒りました?』



ついついからかいたくなってしまったわたしはそのまままた手を着いた状態でフラフラと斎藤さんに近づき、その顔を覗き込んでみる。



「……近い。」



途端に照れて視線を反らせる斎藤さん。



『ふふっ、見慣れているでしょう?夢で…』

「……」

『そんなに似てますか?お嫁さんに欲しいくらい。』

「あれは…」



そこで視線をこちらに戻した斎藤さんは少しだけ黙って何かを考えた後…



「一目惚れ…と言うのを信じているか?」



なんて、突拍子もないことを聞いてくるものだから
一体どうしたのだと考えながらも、何故か真面目に答えてしまう。



『一目惚れ…ですか?んー…今までそんな経験は無いですからね…誰かと付き合う基準もまず普通かどうかで考えてたし……斎藤さんは信じてるんですか?』

「俺も信じてはいなかったのだがな…」



そう言って笑う斎藤さんの表情はすごく穏やかなもので…
真っ直ぐに見つめられたその視線に吸い込まれてしまいそうになったわたしは…思わずそこで沈黙を決め込んで



「何故、普通がよかったのだ?」




続けられた言葉になんとか意識を取り戻す。



『……イケメンが嫌いだから?』



そして、逆に聞き返すような言い方をした私に今度は斎藤さんが沈黙状態になってまう。



『…でも、そう言えば斎藤さん顔は良いけどあまり嫌いじゃないです。
仕事も出来るイケメンって…もし斎藤さんみたいな人と付き合ったら誰も文句は言わないし、皆羨ましがるんでしょうね?』



その微妙な空気を誤魔化すように続けた言葉に自分自身がへこむこととなる。
うん、今までは付き合う相手付き合う相手が普通すぎるくらい普通だったために周りには非難され
更に別れた理由を言えばそれ以上に非難されての繰り返し。
その上…



『最近では周りが結婚ラッシュで私完全に取り残されてる感が否めない…今の私って完璧負け組の一員ですよね?』



こんなイケメンを前にして何を愚痴っているのか?
ため息混じりに告げた私も相当酔っているのだとは思うけど、落とした視線のかなり近い位置にある斎藤さんの男らしく筋ばった首筋も普段よりは赤みを帯びていることで彼もそれなりに酔っているのだとは実感する。


だからだろうか?



「では、婿に行ってやろうか?」



なんて、およそ斎藤さんらしくもない冗談が頭上から降ってきたのは…



『…斎藤さん、嫁がほしいんじゃないんですか?



視線を上げてそう言うと



「たがらあれは…言葉のあやと言うやつだ。」



今度はまたふてくされたように視線を反らす斎藤さん。
やはりその仕草が可愛らしくて…



『じゃあ本当に斎藤さんをお婿さんに貰おうかな…』


また私も笑いながら冗談で返してみる。



「何故婿がほしいのだ?」

『秘密です。なってくれる人にしか教えません。』



不思議そうに問われてそう答えると…



「それは、あんた次第だ。」



予想に反して真剣な声色でそう告げられて…



『……え?』



かなり驚いて間抜けな声を出してしまう私。多分顔も…



「一目惚れを信じているかと聞いただろう…俺も、信じてはいなかった。



……あんたに会うまでは。」


『……夢の、人に似てるから?』



これも冗談の続きなのだろうか?
そう思いながらも目前にある斎藤さんの表情はしごく真面目なもので…
まさか、と思いながらも何故か反らせない視線は斎藤さんのそね顔を真っ直ぐに捉えていて…



「…それはきっかけに過ぎない。」



そう言葉にしながら伸ばされた手が私の頬に触れたことでいよいよ心臓が早鐘を打ち始めてしまう。



「俺が、あんたに一目惚れをしたと言ったら…信じるだろうか?」



滑らされた手が、横で緩く結ばれた髪の毛からまとめきれずに出来たおくれ毛と僅かな前髪をかき上げて止まり
そこから伝わる熱と行為が更にそれに拍車をかける。



『…冗談、じゃなくて?』

「俺は冗談は言わん。」



言い切る斎藤さんの表情はやはり真剣なもので…

それでも、イケメン嫌いの部分の私が僅に抵抗したのか…それとも照れ隠しか…
口をついて出てきたのはあり得ないほど可愛いげの欠片もないような言葉で



『私は…イケメンは嫌いです。だから…多分斎藤さんを好きになる保証なんて…』



まるで壊れた機械のアナウンスのように棒読みで告げる私…

本当に可愛げもくそもない。

ここ最近ではこの短期間で、自分では信じられないくらい斎藤さんが気になっていてもっと知りたくなっているくせに…
少しでも姿を見ていたくて…出来れば、触れてみたくて…

ただ、その感情が恋愛感情のか…久しくそんな経験のないわたしにはそれを判断することが出来なくて…



いや、本当はもうわかっているのかも知れないのに
確定できなければ口に出したくなかったのかも…

勘違いな女にはなりたくないと…

いけないな…年を重ねるごとに捨て身で何かにぶつかっていくと言うことがどうしても素直にできなくなってしまって…



「構わないだろう。それでも俺があんたを好いていることには変わりはない。」


なのに斎藤さんはそんな私にこうして甘い言葉と共に真っ正面からぶつかってくるものだから…



『−っ…///』



この時点で私が斉藤さんに、完全にノックアウトされてしまったのは言うまでもない。



「まぁ…それでもあんたが構わない、と言うのであればだが…」

『……』

「否定されたとて諦める気も更々無いが。」



それでも続く言葉に、お酒ではなく斉藤さんに酔ってしまった私…



『そ、そんなこと言われたら…否定なんて出来ません!』



甘いを通り越したそれに混乱し過ぎて最早半泣き状態。



「そうか…」



なんて、はにかみながら言う斎藤さんの両手が今度は私を軽々持ち上げて自分の上に座らせたかと思うと…少しだけ意地の悪い顔を浮かべて「拒まないのか?」なんて言ってきやがる。



『…もう、拒絶も出来ません。』



あぁ、もうお互いにどうかしてる。
頭の片隅でそう考えながらも、腰に回された腕に答えるように斎藤さんの肩に私も腕を置いて癖のある柔らかな髪の毛を指に絡めて遊び…
念願叶って触れることのできたその喜びにただ、打ちひしがれていた。



『私なんかの何処が良いんですか?』

「一目惚れだと言っただろう?」

『お互いの事もよく知らないのに…』

「これから知っていけばいいだけのことだ。」



と言う斎藤さんも私の髪の毛を指に絡めて遊びだし…



『じゃあ、まずは何から知っていきます?』



そう問うと



「そうだな…ではまず…」


妖しい笑顔を浮かべた斎藤さんが答えた。


閑話斉藤一


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