鉄パンと高嶺の華

□第十二話斎藤さんとの約束
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『……』


なんだろう…これは…


いつの間に眠ってしまったのか、気付けば小さめのリクライニングソファーの上で心地よく寝息を立てていたらしい私は何か豪快な音で目を醒ます事となる…


そして言葉を失う…
いや、本当はあの70年代にヒットした刑事ドラマの名台詞並みに「なんじゃこりゃぁぁぁ……」って言いたかったけどそこはね……ほら、朝だしさ。


そう、朝…付けっぱなしのテレビ画面の左上に映し出された時計は6時12分を表示していて…誰かが閉めた(私は閉めた覚えがない)お気に入りの鮮やかなミントグリーンのカーテンの隙間からは眩しい朝日が差し込んでいる。
まではいいが、その漏れた光を顔に受けて眩しそうにしかめた表情で高らかなイビキを上げているのは永倉新八。こいつのイビキで目が覚めたのだ。

その足元にはワイシャツを脱いで、クシャクシャにしたそれを枕に寝る…寝ていても醸し出す色気は変わらない男、原田左之助…

そして私が寝ていたリクライニングソファーを枕に腕を組み、横向きで規則正しく寝息を立てるのは……斎藤さん。
通りで…寝ながら頬がこそばゆいと思ったら彼の跳ねた髪の毛か……
って、え?私斎藤さんの頭上で寝てたことになるけどイビキとかかいてないよね?まじ、歯軋りとかしてたら最悪なんですけど…


『なんじゃこりゃ…』


虚しく呟いてみる…

あ〜……、記憶はある。
大体は。

私も色々諦めて和の中に入って…
そうだ。終電が過ぎた頃になっても盛り上がり続けるこの男たちを見て、帰る気ないなこいつら…と思い、私も本格的に飲み始めたんだ…

その頃には笑ってはいけないも見終わって…そうだ、結局斎藤さんが宅急便を見はじめて……土方さんがこのソファーの上で真剣に見入っててたんだよね。

それから?永倉さんと藤堂さんが寝てしまって…

あぁ、30代未婚女性(多分彼氏無し)も帰ったんだ。最後まで彼女の名前を知ることは無かったな……

で?あ〜…、土方さんをソファーから追いやって私がここを占領したんだ。
そのうち眠くなって……

何時だ?

確か近くで土方さんの「ちきしょう泣かせるじゃねぇか」っての聞こえたからあの辺が宅急便の終盤か?
別に泣けないけどね…宅急便。

4時近くかな?やだ、2時間しか寝てないし…


『あれ?』


そう言えば人数が足りない…
私が寝るまでは…居たよね?全員?
帰った?まぁ、始発ももう出てるしね。
帰ったんだ多分…


そう思い、斎藤さんを起こさないようにそっとソファーから降りてキッチンへ向かおうとして……「あ、永倉さんの足踏んじゃった」と立ち止まったところで視界に入るのは間仕切りの向こう側……


『なんじゃこりゃ』


再びの虚しい私の呟きは誰に聞かれることもなく永倉さんのイビキによってかきけされたけど。
そおっとベッドの近くまで歩み寄ってそこで寝ている人物を確認すると…


カシャッ


ポケットから取り出したケータイで写真を撮る。


『土方さんと藤堂さんが仲良く寝てる…』


私のベッドの上で。



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