鉄パンと高嶺の華

□第二十話社員旅行前のひととき
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6月も末。1班、2班の社員旅行が続けて終わり、うちの部署もいよいよ来週からという終末…


「旅行の準備終わりました?」

「あと少し、休み中にやっちゃう。」


と、楽しげな会話が書類の壁の向こう側から声の音量をおさえることなく無く聞こえてくる。

土方さん…睨んでるけど?

いいのかい?住人の皆様…


『社員旅行か…』


正直…このギリギリになってもまだ行きたくない私。だって…飛行機が…


「おい、川澄。」


飛行機…乗りたくないな…


「おい、聞いてんのか?川澄?」


苦手なんだよね、飛行機…


「てめぇ、川澄…いい度胸してんじゃねぇか!」


度胸でどうにかなるもんじゃないんだよ、あれは…


『……ん?』


何か私の思考の合間に土方さんの声が聞こえてたような…


「……」

『……』


意識を今現在に取り戻して、デスクに出来ていた大きな影を追い視線を上げた私…


『土方さん?』


のすぐ横には鬼の形相をした土方さんが立っていて…


「土方さん?じゃねぇよ!てめぇ、さっきから人のこと無視しやがって!」

『ご、ごめんなさい!』


やばいやばい…仕事中に完全に自分の世界に入り込んでた…
焦り、一人反省をする私に土方さんは深いため息を吐く。


「社員旅行が近いからってうかれてんじゃねーよ!」

呆れたようにいい放つ土方さん。
しかしその視線は私ではなく、壁の向こう側を向いていて…

それに気づいたのか彼女たちのおしゃべりも全く聞こえなくなっていた。


「まぁ、いい。ほら、これ後で配っておいてくれ。」

『はい…』


ドサリとデスクの上に置かれたのは、旅のしおり
今どきこんなものを見て、その通りに行動する人間なんているんだろうか…
そう思いながら、一番上のしおりを手に取りめくると…
移動時間以外ほぼ自由時間。
これ…作る意味あるか?


『…そういえば……』


ふと気になり参加者名簿のページを開いて見る。


『あれ?』


3班とかかれているそのしおりに、私の名前が載っていないのは当たり前のことなんだけど…
うちの部署からは予定通り腐海の住民たちとイケメン達の名前…それはいいのだけど


『近藤部長たちの名前がない…』


名簿のどこを探しても近藤部長、山南部長代理、千鶴ちゃんの名前はなくて
ついでに言うと友人の名前もない。
……と、言うことは…必然的にまだ作成されていない私と同じ4班で参加ということになるのだろうか?

これは全くの予想外。

だって、近藤部長達は絶対に土方さん率いるイケメン達と一緒だと思ってたし。


『……』


予想外…ではあるけど、ちょっと嬉しい。
さみしい社員旅行を送ることを覚悟していたのに、千鶴ちゃんや友人と一緒になったのだから。


『土方さんの陰謀?』


いや、まさかね…
私は元々3班の予定だったのを麻美ちゃんが勝手に4班に変えた訳だし、他の部署の事まで土方さんが手を出せる筈がない。


『偶然か…』


ハハッと軽い笑を一つ漏らして名簿に載った名前を指先で一撫でする。

斎藤さん…


1週間以上も会えなくなるのか…



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