番外編

□お返しには愛情表現でお礼を
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「ねぇ、はじめさん…いい加減決めたら?」

「いや。もう1件行ってみよう。」

「……」


そう言ってせかせかと歩き始める斎藤に、無理して貰った…と言うより、斎藤が勝手に永倉を脅して非番となった龍はそれを見送りながら…


「はぁ……」


深いため息を吐く。








これで何軒目だろうか?

普段の斎藤からは想像出来ないような店先で、珍しくも真剣に考え込んで品物を物色している。

それこそ、普段の斎藤を知る龍にしてみればそれだけで笑いのツボにドハマりしそうな所なのだが…


これだけの距離を歩かされた上に、気になる店を見つける度にこうして長時間待たされているのだ。


「いい加減飽きた。」


未だ店先で真剣に品物とにらめっこをしている斎藤をチラ見して…
商売の邪魔にならないよう端によってしゃがむ。

未来ではこれをウンコ座りと言うが…
その状態でまた、わざとらしく盛大にため息を吐くのだった。















「……」

「……」


陽が傾き掛けた景色の中、無言で屯所までの道を歩く二人の男。


結局…、これ!と言う気に入ったものが見つからず…と言っても気になったものは全て買ったのだが。


肩を落とす斎藤と若干やつれた様子の龍。


「はぁ…」


今、ため息を吐いたのは斎藤。

どうしても…どうしても今日中に決めてしまわなければいけなかったのだが…

全く、未来の日本男子の今日と言う日の苦悩は心中察するものがある。

しかし、どうしても妥協はしたくないものだ。


「……」


人に物を返すと言うのがこんなに悩む物だとは…
それが想い人と言うならなおさら。

尊に出会うまでは考えたことも、感じたことも無い感情…


尊も一月前には…こんなに悩み、考えあぐねていたのだろうか?















一月前。


中庭で稽古をしていた所、突然やって来た尊に渡された物を両手の上に乗せ…それを見つめて固まる斎藤。


「これはなんだ?」


そう問うと


『バレンタインです。』


と言ってやんわり笑った後…


『あまり出来が良くないので、後で開けてくださいね!』


そう告げて、照れたように走り去って行った尊を眺めて
姿が見えなくなった所で、そのまま縁側に腰かけてもう一度手の上の物を見つめる。


綺麗な和紙を何重かに重ねてこより状にしたそれを、これまた綺麗な色の組紐で結ばれていて…


その紐を解いてみると、途端に鼻孔をくすぐるほんのりと甘い香り。


「……」


匂いからして食べ物なのだろうが…

見たことの無い形、嗅いだことの無い香りの物にどういう行動を取るべきか…

考え、再び固まってしまう。


そもそも……



「あ、はじめさん…なにそれ?」


突然後ろから顔を覗かせてきた龍が、俺の手の上の物を見て目を丸くして…


「クッキー…?」


そう呟いた後…


「そっか、バレンタインね。」


と納得し始める。


それだ!そもそも…

ばれんたいんとは何なのだ、一体?



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