番外編

□ほんの僅かな時も共に
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「尊さん、私水汲んできますね。」

『ん、お願い。』



勝手場で朝食の片付けを始める尊と雪村。
その雪村が水を汲みに出てしばらく、後方で人の気配を感じた尊は雪村にしては随分早いなと考えながらも振り向くことはなくそのまま作業を続ける。



『?』



すると直ぐに何者かが自分の高く結っている髪の先に触れる感覚がして…



『どうしたんですか?はじめさん。』



やはり振り向くことはなくそう問いかける。



「…よくわかったな。」

『分かりますよ、はじめさんの事は。』



と言っても、声も掛けずに自分に触れてくるのはこの屯所内では斎藤か沖田か龍位のもので…後二人は大抵後ろから抱きついてくるのだ。
だからこんな触れ方をするのは斎藤だけ…とは本人には言えないけど。



『どうしたんですか?』



今度は振り向いてそう問いかけると、自分より高い位置にある澄んだ藍色の瞳と目が合い
表情こそいつものままではあるが、その瞳を少しばかり戸惑うように揺らしながら「忙しいのか?」と逆に小さく問いかけられる。



『……』



そう聞かれても見た通りなのだが…



『いつも通りですよ?』



やんわりと笑い答えると「そうか」と覇気の無い返事が返ってきてその後二人に沈黙が訪れる。



『はじめさっ』

「何か手伝うか?」

『…千鶴ちゃんもいるから大丈夫ですよ?』

「そうか…」

『?…お茶淹れますか?』

「いや、いい…」



短い会話だけが続きまた訪れた沈黙。
何かを…言いたそうにしているのは分かる。
が、何を言いたいのかは分からない。
普段口下手な斎藤は…何か伝えたいことがあっても、勢いが無い限りなかなかそれを切り出しては来ない。
いつもはそれを待つ尊だが…



「…尊」



今度は少しばかり伸びて長くなった前髪を指先で遊びながらその重い口を開きかけたとき…



「尊さん、水汲んで…あ、斎藤さん…」



丁度雪村が戻ってきたのだ。



「どうしたんですか?あ、お茶?淹れますか?」

「いや、いい…」



いつもは誰かが来た時点で触れることをやめる斎藤が、今日はどうした訳か…雪村が隣に来てもその手を引くことはせず、暫くは毛先で遊び続けて後
最後にそのまま頭を一撫でした後…それでも名残惜しそうにやっと手を引いたかと思うと



「はぁ…」



小さくため息を吐いて、後は何も言わずに勝手場を出て行ってしまう。



『……』

「……どうしたんですか?斎藤さん?」

『…さぁ?』



雪村も尊もただただ、その方向を不思議そうに眺めるしか出来なかった。



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