大伴一志の章

□章間〜雨の降る町〜
2ページ/6ページ



それから私達は港に向かった。

葦津町には船が就航する港の隣に小さな浜辺があり、上の公園とは別に古い公園もある。

昔、私と一志もよくここで遊んだ。

「小さい頃、ここでよく遊んだの。一志と皆と...。昔は駅の上の公園は無かったし、町の子供達はだいたいここで遊んでた。」

今は冷たい海風が私と浩輔の間を吹き抜けていく。

昔のことなんて思い出した所で現実なんて変わらないのに、一志との思い出ばかり浮かんでくる。

浩輔「どんな子供だったの?朋美と一志は。」

「私は負けん気が強い女の子で、一志も今みたいに無愛想じゃなくて、もっと活発な男の子だったよ。」

浩輔「活発な一志なんて想像出来ないなあ。」

「あはは。今の一志からはそうかもね。そういえば、ケンカするといっつも一志から謝ってきてた。一志は悪くないのに。」

そういえば、一志に素直に謝った事がなかったな。

私は小さい頃から本当に意地ばかり張って生きてきた。

お母さんが入院した時も、亡くなった時もお葬式の日も、泣かなかった。

泣いちゃいけないって、私が泣いたら皆が不安になるから泣けないって思い込んでいた。

お母さんが亡くなったのはまだ小学2年生だったのに。

思い出すと幼い自分が可哀想に思えてくる。

けど、その代わり一人で泣いた。

誰もいないところで。

それなのに何故か一志には見つかって、一志は決まって何も言わずに隣に座って側に居てくれた。

砂浜に暖かい日差しと潮風が吹き抜けていく。

また一志との思い出が頭に浮かぶ。

「そういえば昔、私が知らない男の子とケンカした時があったの。私が「女のくせに生意気だ!」なんて言われたら、一志はその男の子に「朋美に謝れ!」って食ってかかってね。」

一志は小さい頃から正義感が強くて優しかった。

いつも私を守ってくれてた。

支えてくれてた。

ササギの記憶が無い頃もずっと、ずっと...。

「結局、一志とその男の子が取っ組み合いのケンカになっちゃって、おばさんにそれがバレて、一志が凄く怒られちゃった。」

一志との思い出は何一つ色褪せて無い。

一つ一つ昨日の事の様に思い出せるのに、一志はここにいない。

辛くて苦しくて...上手く息が出来ないよ。

本当に消えてしまったの?

もう、私の声は届かないの?

いつも側に居たのに、一番辛い時に側に居てくれないなんて。

守ってくれるって約束したのに。

会いたい。

会いたいよ...

一志。

私は一志に届くように海へ願った。







次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ