大伴一志の章
□章間〜雨の降る町〜
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それから私達は港に向かった。
葦津町には船が就航する港の隣に小さな浜辺があり、上の公園とは別に古い公園もある。
昔、私と一志もよくここで遊んだ。
「小さい頃、ここでよく遊んだの。一志と皆と...。昔は駅の上の公園は無かったし、町の子供達はだいたいここで遊んでた。」
今は冷たい海風が私と浩輔の間を吹き抜けていく。
昔のことなんて思い出した所で現実なんて変わらないのに、一志との思い出ばかり浮かんでくる。
浩輔「どんな子供だったの?朋美と一志は。」
「私は負けん気が強い女の子で、一志も今みたいに無愛想じゃなくて、もっと活発な男の子だったよ。」
浩輔「活発な一志なんて想像出来ないなあ。」
「あはは。今の一志からはそうかもね。そういえば、ケンカするといっつも一志から謝ってきてた。一志は悪くないのに。」
そういえば、一志に素直に謝った事がなかったな。
私は小さい頃から本当に意地ばかり張って生きてきた。
お母さんが入院した時も、亡くなった時もお葬式の日も、泣かなかった。
泣いちゃいけないって、私が泣いたら皆が不安になるから泣けないって思い込んでいた。
お母さんが亡くなったのはまだ小学2年生だったのに。
思い出すと幼い自分が可哀想に思えてくる。
けど、その代わり一人で泣いた。
誰もいないところで。
それなのに何故か一志には見つかって、一志は決まって何も言わずに隣に座って側に居てくれた。
砂浜に暖かい日差しと潮風が吹き抜けていく。
また一志との思い出が頭に浮かぶ。
「そういえば昔、私が知らない男の子とケンカした時があったの。私が「女のくせに生意気だ!」なんて言われたら、一志はその男の子に「朋美に謝れ!」って食ってかかってね。」
一志は小さい頃から正義感が強くて優しかった。
いつも私を守ってくれてた。
支えてくれてた。
ササギの記憶が無い頃もずっと、ずっと...。
「結局、一志とその男の子が取っ組み合いのケンカになっちゃって、おばさんにそれがバレて、一志が凄く怒られちゃった。」
一志との思い出は何一つ色褪せて無い。
一つ一つ昨日の事の様に思い出せるのに、一志はここにいない。
辛くて苦しくて...上手く息が出来ないよ。
本当に消えてしまったの?
もう、私の声は届かないの?
いつも側に居たのに、一番辛い時に側に居てくれないなんて。
守ってくれるって約束したのに。
会いたい。
会いたいよ...
一志。
私は一志に届くように海へ願った。
。