小指ぶつけた

□見知らぬ場所に
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目が覚めると見慣れない部屋。
部屋を見渡すと時代劇に出てくるような土間に釜戸、そして私が寝ていたのは畳だった。しかも、その部屋は木でできていて。
『夢か、もっかい寝よ。』

私は再び睡眠を取ることした。





『ふぁ〜。』

残念ながら二度寝から覚めても時代劇チックな部屋のままだった。(しかも自分は着物姿、どう考えてもおかしい。)
なので、状況把握のためにも外に出ようと思います。
『おぉー…、すごいなー。』

私が寝ていた家は街の住宅街にあった様。外は時代劇そのまんま(しかもやけにリアル)、その家の裏の大通りでは着物を着た人々が行き交い、甘味屋さんや着物屋さん、武器を売ってるとこなんかもあった。


『すみません、少し聞きたいことが…』

「あたしかい?あたしに答えられるもんならかまわんよ。」

私が声を掛けたのは鶯色の着物とすすき色の帯がよく似合う、背中の少し丸まった白髪のお婆さん。

『すみません、あの、此処はどこですか?よければ近くの交番教えて貰えると嬉しいんですけど…』

「こう…?まぁ、とにかく此処

は青葉城の城下町だよ。ほら、彼処に青葉城が見えるだろ。」

『青葉城?…。』

(青葉城、青葉城……って城主は伊達政宗だよね。)

「なんだい、本当にまったくわからずに此処に来たのかい。」

私が頭の中で某スタイリッシュ戦国ゲームを浮かべているとお婆さんはそう言い呆れた顔をした。

「ところであんた何処から来たんだい?」

(目が覚めたら他人の家で寝てましたとは言えないしな〜…)

『……え〜と』

私が顔を軽く俯かせ、目を游がせているとお婆さんは何を勘違いしたのか顔を歪めた。


「あんた、親に勘当されでもしたのかい?まぁ深くは聞かないがねぇ、もしそうなら仕事見つかったかい?」

お婆さんは、私が俯いて黙ったのは両親に勘当され、生活のために仕事を城下に探しに来たものと勘違いしたらしい。

(騙したみたいで罪悪感がするけど、訂正したらしたで“じゃあ何処から来たんだい”なんて事になる可能性もあるしー…。)

『(にへらっ)』

私は固定も否定もせずに、ちょっと困ったような苦笑いを浮かべることにした。
そのまま、勘当されたものだと勘違いしたらしいお婆さんは私の手を引きズンズン大通りを行き、ある程行ったところで路地に入った。


その横道を抜けるとこじんまりとした、しかし客の話し声が程よくする、例えるなら平日のファミレスのような甘味屋さんがそこにあった。

「利吉はいるかい!」

「なんだクソババア!いきなり大声出しやがって!」

「クソジジイが!あんたこそ大声だろうが!!」

「てめえには負けるよ!!」

「あんたにこそ負けるよ!!!」

「てめえにこそな!!!」

「あんたにこそな!!!!」

(いやいや二人とも十分、声でかいよ。)

いきなり言い合い出した二人に私は思わず心の中でツッコミを入れた。
暫くは言い合い続けていた二人だったが、段々と大声での言い合いに疲れたのか声が小さくなっていき、最後には二人して肩で息をしていた。

「はぁはぁ…で、何しにきたんだクソババア。」

「はぁはぁ…そうだったね。すぅはぁ、あんたこの前、売り子が実家に帰って人手が足りないってぼやいてなかったかい?」

「ああ、言ったが?なんだ活きのいいこ紹介してくれんのか。」

「働き口を探してる子がいてね。ほら、そんなとこ突っ立ってないで此方おいで。」

突っ立っていたのはあなた方の言い合いに引いていたからですとはさすがに言えないので、私はすみませんと言いながらお婆さんの元へ駆け寄った。



「この子がそうかい。妻もいるが老い耄れ同士だからなぁ、正直二人じゃ店回すのはキツくてな。こんな若い子なら歓迎だ。娘さんあんたなんて名前だい?」

『あ、はい、花子っていいます。』

「花子か。あんたさえよかったら此処で働くかい?」

『いいんですか?では、よろしくお願いします。』

(やっったぁぁぁぁあ!!仕事確保ぉぉぉお!!!)

「あぁ、よろしく頼むよ。儂の名前は利吉だ。」

不景気だ衆議院解散だなんだと騒がれ、大学卒でも仕事に就くのは一苦労だと言われているのに、こんな簡単に職に就けたのは本当に有難い。

「じゃあ、明日から店に来てくれるかい。」

『はい、わかりました(にっこり)。』

利吉さんはさっきの言い合いとは打って変わった穏やかな笑顔で私に言ったので、私もにっこりと笑みを浮かべて返事をした。
「そう言えば名乗ってなかったね。あたしは静(しず)だよ。お静とでも呼んでおくれ。」

「はい、お仕事紹介してくれてありがとうございます。とても助かりました。」

私がお礼を言うとお静さんは満足そうにウンウン頷いた。



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