小指ぶつけた
□現実なんてそんなもの
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此処に来た日から3ヶ月が経った。
「団子3本上がったよっ!」
『はい!』
「しかし、すっかり板についてきたねぇ。始めはどうなる事かと思ったけど、おろおろしてた頃が懐かしいよ。」
『お初さん、からかわないでくださいよ。「花子ちゃん、団子ー!」はーい!じゃあ、お初さんまた後で。』
「はいよ、頑張りな。」
『はい!』
仕事にもなれ、ご近所付き合いも今のところ良好だ。
此処の人達は明るく温かでほっとする何かがある。
私はこの温かさに何度も救われた。
「花子さん、今日はもう休んで構わないよ。客足も少なくなってきたから。」
『では、これを出したら一息つかせてもらいます。』
団子を出し終えた私は店の裏手で休憩を取っていた。
(今日も大繁盛だったなぁ。)
毎日、昼頃は客要りが良くなる。
これだけ良ければ利吉さんと奥さんのお藤(ふじ)さんだけでは手が足りなくなるのも頷ける。
「花子さん、今日もお疲れ様。お茶でも飲んで一息つくといいよ。」
『お藤さん、ありがとうございます。』
「なに、いつも頑張ってくれてるからね。あたしら夫婦は大助かりさ。」
『そう言って貰えると嬉しいです。』
「ふふ、そうだ今日もう大丈夫だから。好きな事をするといいよ。」
『分かりました。』
「じゃあ、また明日。宜しく頼むよ。」
そういうとお藤さんは店に戻って行った。
* * * *
(久しぶりに着物屋さん覗こうかな?)
する事も無かった私は仲良しお婆さんが営む、着物屋に向かう事にした。
『こんにちは。お喜梛(きな)さん。』
「こんにちは。そうだ花子、座敷に上がっておいき。」
お喜梛さんはそう言うと座敷の奥に向かった。座敷にはぺったんこになった座布団と繕いかけの着物がある。
「金平糖が手に入ってね。食べていきなさいな。」
『じゃあ、頂きまーす。』
私が色とりどりの小さなお菓子に舌鼓を打っているとお客さんが来たようでお喜梛さんはお店の方に行った。
「あら、藤次郎様。お久しゅうございます。今日はどういったご用件でございましょう。」
(ん?藤次郎様?)
「あぁ、着物を新調しようとおもってな。」
(ちょっとまて、今、中○ボイスが聞こえた気がするんだけど。)
好奇心に負け、座敷からお店を覗いてみる。
(あー…、BASARA確定ですね。そう言えば、政宗って本名、伊達藤次郎政宗だったっけな。しかし、美形だ。手元の生地が霞んでいらっしゃる。)
「ん?あぁ、花子、此方にいらっしゃい。」
お喜梛さんは伊達政宗を凝視していたのに気付いたらしいく、気を回してか私を呼んだ。
「は、はいっ!(なんで呼ぶの!お喜梛さん!!)」
私は恨めしい気持ちになりながらもお喜梛さんの元に行った。
「ほら、ご挨拶なさい。」
伊達政宗は手に取っている生地を見つめたままだ。
「(ほっ、)お初にお目に掛かります。花子と申します。」
「あぁ」
挨拶をすると此方をチラと見やり、また直ぐに生地に目をやった。
(うん、祖祖はしてないよね。)
生地に夢中になってくれていて本当に良かった。上がり症の私には伊達政宗の視線は厳しいものがある。
(見られてたら、多分どもりまくってたわ。)
私は挨拶を終えるとそそくさと座敷に戻った。
お喜梛さんは何か言いたげな顔をして此方を見ていたがそんなこと知ったこっちゃない。
祖祖をしでかす前に座敷に消えるに限る。
伊達政宗はいくつかの生地を手に取って、暫く悩んでいたが、濃紺に黒の刺繍の入った生地を選んだようだ。
「婆さん、これで頼む。」
「まいど有難うございます。またのお越しをお待ちしております。」
伊達政宗は選んだ生地をお喜梛さんに渡すと颯爽と帰って行った。
「花子、あの方は城主の伊達政宗公だよ。よくお忍びで来てくださるんだ。」
『へぇ、そうなんですか(まぁ、わかってましたけどね)。』
「あんたって子は。野心が有りすぎるのも考えものだが城主くらい興味を持ちなよ。普通はお会い出来ることなんて無いんだから。」
『ちゃんと、祖祖はしないよう意識してましたよ。』
「そうじゃなくてね。まぁ、個人の勝手さね。私が口出しすることではなかったねぇ。」
『あはは(いや、暗に狙えって事ですよね。無理です。)』
(初BASARAキャラ遭遇イベだったなぁ。欲を言えば、片倉さんの方が会いたかったんだけど。)
そんなこんなで私の初BASARAキャラ遭遇イベは何のハプニングも無く無事終了した。