くろいばら

□明日の寝顔
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蓮実先生と猫山先生の甘い話。





どうやら自分は眠くなって少し横になっていたらそのまま浅い眠りに落ちてしまったらしい。生物準備室から見える雲だらけだった蒼い空も綺麗なオレンジ色に染まっていた。
開けている瞼がまだ重い。

「ん〜〜〜〜〜〜」

作りかけていた骨格標本を再開しなければ、と思いだるい体を引きずって椅子に座る。
後ろにふんぞり返るほど背を伸ばしていたら入り口に蓮実先生がいるのが目に入った。

「やっと起きたんですね、おはようございます。猫山先生」
「蓮実先生じゃないですか。いつからそこに?」

挨拶も返さず疑問に思ったことを投げかけると答えも聞かずすぐに作業を再開する。

「んー 6分ほど前くらいからですかね。」
 
蓮実先生の顔は見ていないがきっと小さく笑みを浮かべているだろう。声を聞いてなんとなくそう思ったのもあるが、いつも爽やかな笑顔を浮かべているイメージもあるからだ。
しかし6分も起こさずに待つとはどんな用事なのだろうと思い、作業を続けながら口を開いた。

「それで私に何か用でもあるんですかー?」
「いえ、特にないですよ。」

即答された。ではこの男はなぜここに来たのだろうか。意味もなくここへやってくるなんて人は普通いないだろう。作業の手を止めて蓮実先生の理解不能な行動に悶々と考えていると近づいてきて耳元で囁いた。

「猫山先生の寝顔可愛かったです。」
「・・・・・・・はい?」

全く理解できない言葉だったので眉間にしわを寄せて、蓮実先生を見ると満足そうににっこり笑みをうかべていた。

「だから、可愛かったんですよ。猫山先生の寝顔。」
「・・・・男に可愛いなんて言われても嬉しくありませーん。」

嬉しくないと返すのにもめげず、蓮実先生は隣で目を細めて笑っていた。

「ふふふ、すみません。でも普段の猫山先生とは違う表情が見れて良かったです。
それじゃ、明日同じ時間にまた来ますね。」
「あ、ちょっと、」

返事も待たず行ってしまった。蓮実先生が帰った途端、部屋が静かになってしまったような気がした。いつももこんなに静かだっただろうか。

「゛明日同じ時間にまた゛、ねえ・・・・」

先ほど彼が置いていった言葉を思い出し、また声を出しながら背を伸ばす。
少しでも楽しみだなんて思った自分がいたのでかき消すように作業を再開した。



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