くろいばら

□もしも僕が
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蓮実先生と猫山先生の甘い話。






「・・・・この鳥はですねえ、」

猫山先生が骨格標本にしようとしているの鳥の説明を目を爛々と輝かせて話している。
手元を覗いて見ると童話の本から出てきたような綺麗な鳥の腹がざっくりと切られ、赤黒い血がその綺麗な羽を濡らしていた。
こちらを見もせず、鳥にざくりざくりとメスを入れながら熱心に説明をする猫山先生をただ壁に寄りかかってじっと見つめる。もちろん話の内容は全然頭に入ってきていない。

「それでですねえ、・・・・・って聞いてるんですかー?」

今まで聞こえていた返事が聞こえないのを不審に思ったのか手を止め、顔を上げてやっとこちらに視線を移した。
手紋だらけの眼鏡には飛び散った返り血が小さく付いていた。

「蓮実先生ー?」
「猫山先生、」

猫山先生の手から真っ赤に染まっているメスを取ると刃先を首元に向ける。
気を抜いていたのか手からは容易に取り上げる事が可能だった。

「私がもし残虐な殺人鬼だったらどうします?」

にっこりと笑いながらそう訊ねる。この男はどんな反応をするのか。

「どうもしませーん」
「今ここで殺されるかもしれないんですよ」

殺そうと思えば今すぐ首元を掻き切って殺すことも可能だ。もちろんそんな事はしないが。
しかし猫山先生は恐怖の色を微塵も見せずに笑みを浮かべながら、それ返してくれませんか?とだけ言った。
言われたとおりゆっくり首元からメスを遠ざけ、猫山先生の手の平へ返してやるとまた鳥に視線を向けて作業を始めた。
この男は面白い人だとつくづく思う。自然に口元が緩んだ。

「怖くないんですか?」
「いいえ、怖くないわけではないでーす。私だって一応人間ですからねえ」

怖くないわけがない、そう言っているが全く怖がっているようには見えない。

「でも蓮実先生になら殺されてもいいような気がします。・・・・・なんてね、うひひひ」
「ふふ、嬉しい事言ってくれるじゃないですか。」

その言葉が冗談なのか本当なのか分からないが、殺す時は自分の手で綺麗に殺してやりたいと思った。
日々腐りゆく猫山先生を毎日眺めるのもいいが、逆に棚に飾ってある標本のように骨にしてやるのも中々いいと思う。
猫山先生のように上手く作ることはできないだろうが。

「ではもし私が死ぬときは猫山先生の手で殺して、美しい標本にしてくださいよ」
「ええ、もちろんでーす。できる限りのことをして綺麗に仕上げてあげます。うふふ・・・うひひひ・・・・それこそまさに正真正銘のマスターピースですよ!」

整った顔を歪めて、不気味な笑い声をたてる。

「約束ですよ、蓮実先生」

猫山先生は一通り笑うと手にしていたメスを置くと頬に手を添え、唇を押し付けてきた。
慣れていない感じがなんともいじらしい。
軽いキスで終わらせようとしたのか、頬から手を離そうとした猫山先生の手首を掴んで引き寄せると舌を入れてやる。

「!っん、む」

驚いて目を見開いている猫山先生の口内を舌でぐちゃぐちゃにかき乱す。猫山先生は息ができなくて苦しいのか、ぎゅっと目を瞑り体を離そうとする。
本当に苦しそうなのでしょうがなく唇を離すといやらしく糸が引いた。
ぼーっと夢見心地で宙を眺めているのでこのまま襲ってやろうかとも考えたが、そこで授業終了の鐘が鳴った。

「ああ、襲ってやろうと思ったのに・・・・残念。」

力が抜けたのか床にへたりこんでいる猫山先生の頬に触れるだけのキスをして、生物準備室のドアへ向かった。

「また来ますね、猫山先生」
「・・・・・・・全く、蓮実先生には敵いませんねえ・・・」

相変わらず猫山先生の唇柔らかいなぁなんて思いながら軽い足取りで次の授業へと向かう。


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