short SIREN


□赤い支配。
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「…歩子…!!」

「…痛い…ここは?」

高戸歩子が目覚めた場所は、ベッドの上だった。
鼻をツンと薬品の香りがくすぐる。

ああ、病院か。ここは病院なのだ。
しばらくぼーっとしていた歩子はハッとして、自らが居る場所に気付く。

でも、なぜここへ…?

「…雨、だ。覚えてないか。」

そうだ。雨。

「赤い…雨?」

「あぁ。何か嫌な予感がしてな。ここに来た。」

目の前に座っている男性は、宮田司郎。
この村に異変が起きて、久々の再開をした。

「…ごめん、ありがとう。世話、掛けたね。」

歩子は、無表情のままそう呟くと、部屋を立ち去ろうとする。

ーーしかし、それは白い腕に捕まれ実行出来なかった。

「…どこへ行くんだ。」

「…ここにいちゃ行けないの。宮田さんといたいけど、いれないの」

歩子は、自分の異変に気が付いていた。
赤い雨を、飲み込んでしまった。
それからだ。考えてもいないことを実行しようとしたり、頭がぼーっとして何をするのかわからなくなったり。

あれはイケナイ水だ。

「宮田さん…は、赤い雨…飲んでないよね?」

「あぁ。」

「良かっ…たぁ…あはは…あは…」

嬉しくなって、笑みがこぼれた歩子の瞳からはどろりと、赤い筋が流れ落ちた。

「…やはり。そうだったか。」

宮田は、歩子のまだ暖かさの残る首に手を掛ける。

「俺が…。楽にしてやるからな。」


そう呟いて、ゆっくりと力を込める。


「宮…田さん…うれしぃ…ありがとう…大好き…ぅぐ…っ」


赤い筋をまたゆっくり流せば、口から赤くそまった涎のような液体が滴る。


この感覚、何度目だろうか。
と、宮田は思った。


すっかり冷たくなってしまった歩子の体を抱き寄せ、頬を合わせる。

冷たい。
その感触が、宮田の背中をゾクリと震わせる。

これは性癖なのだろうか?

もどかしい心地良さと、甘ったるい吐き気が入り混じった快感が脳を支配する。


しかし、ほかの人の時とは違う感覚が宮田を襲った。




後悔。


歩子を無くしてしまった後悔。
それだけではない。もっと早く行動していれば…という後悔。
そして、もう引き返せない…後悔。


美しい歩子の目からどろりと垂れている赤を、音を立てて舐める。

まるで餌を求める狼のように。

夜の病院に響く、耳障りな水音。


それを終わらせた後、宮田は呟いた。


「愛してる…、歩子」

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