サイボーグ

□第5話
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鈴と景斗は部屋に戻り、無言のまま向かい合わせにテーブルの席に着いた。
景斗が立ち上がり、二人分のコーヒーを用意し、再び席に座ると、それに合わせて鈴が重い口を開いた。
「あなたに全てを話します…」
鈴は景斗を真っ直ぐ見据え、決意こもる表情で言った。
「…うん。」
景斗もまた、同じ表情で答えた。
 
2129年(18年前)
「私は絶対に認めんぞっ!」
Ω社社長であるエバルの怒鳴り声が、社長室に響きわたった。
テーブルを挟んだソファーに、エバルとその向かいに鈴とエバルの長男であるクロードが座っている。
「違う違う。
認める認めねーなんて関係ないんだよ。
おれはただ息子の義務として報告をしに来ただけなんだ。」
クロードは激情しているエバルとは逆に、冷静に答えた。
「…結婚は反対はせん!
しかし何故養子にいくんだ?」
エバルは少し気持ちを落ち着かせて言った。
「おれはあんたの後を継ぐ気はない。
そしておれはこの会社が嫌いだ。
養子の理由はただそれだけだ。」
クロードは淡々と述べた。
エバルには一男三女の4人の子供がいる。
長男 クロード
長女 エディー
次女 ヴェクサシオ
三女 エミィー
エバルはクロードが会社を継ぐ事を、当たり前の様に思っていた。
「頼む!
お前しかいないんだ!
私の作り上げたこの会社を、血の繋がりのない他人に継がせたくないんだ!」
社長として…いや父親として息子に頭を下げるのは屈辱的だが、エバルにとってはそれだけ必死だった。
「いい加減にしろっ!
あんたはどれだけおれを縛れば気がすむんだ!
おれは自由でありたいんだ!
これ以上あんたの言いなりにはならない!」
クロードが始めて感情をむき出しにして声をあげた。
「縛ってなどいないではないか。
不自由のない生活を与えてきたではないか。」
エバルは弱々しく答えた。

「あんたが与えてきたのは金だけだ!
母さんがどれだけ苦労したと思ってるんだ!
社長婦人をしながら4人の子供を一人で育てる事がどれだけ大変な事か、あんたにわかるかっ!?」
クロードはさらに声をあげて言った。
「確かに仕事ばかりで、家庭を省みなかったのは悪いと思っている。
母さんにも悪い事をした。」
エバルは申し訳なさそうな物言いで、顔をふせた。
「今の時代に過労死なんて聞いた事ないぜっ!」
そう言ってクロードは腕を組み、あさっての方向を向いて黙ってしまった。

数秒間沈黙が続いた。
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