サイボーグ

□第9話
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翌日、昼前。
エリー、ヴァン、エフィル、芳志が、アークのいる医務室へと集まった。
集まったというより、芳志に集められた。
「お兄ちゃん体調はどう?」
エリーが心配そうにアークに訊ねた。
「もう大丈夫だよ。」
アークはそう言って、体に繋がれていた配線を、全て外した。
「それで何でおれ達は集められたんだ?」
ヴァンが芳志に向かって言った。
「実は3人に行ってもらいたいミッションがあります。」
「3人って、私とお兄ちゃんとヴァンお兄ちゃんの3人?」
エリーが訊ねた。
「はいそうです。
アークさん達は、おばあさんに会いたいと言っていましたよね?
そのおばあさんと言うのは、白銀山(しろがねやま)に住む、イオ・アースさんの事ですか?」
「そうだよ。
イオばあちゃんだよ。
芳志さん知ってるの?」
エリーが嬉しそうに答えた。
「はい。
先月より、白銀山を調査してるんですが、イオさんの住む村で、何度かお世話になりました。
その白銀山の調査を、3人に引き継いでもらいます。」
「調査…。
まさかその調査中に僕達が巻き込まれたんですか?」
アースが訊ねた。
「はい…。
本当に申し訳ありませんでした。」
「オイオイ!ちょっと待てよ!
確かあのミッションは、シンクロ率80%以上のバトルタイプ3名のサイボーグだったよな?」
ヴァンが話に割って入ってきた。
「はい、そうですよ。
お2人をバトルタイプに任命し、アークさんのシンクロ率が80%になった時点で、作戦に入ります。」
ヴァンとエリーはミッション条件をクリアしているので、後はアークのシンクロ率だけが問題だった。
「何涼しい顔して言ってんだよっ!」
ヴァンが突然声をあげて、芳志の胸ぐらを掴んだ。
「バトルタイプって事は、戦闘要員だろうがっ!?
どこまでこいつらを巻き込むつもりだ?」
「仕方ないじゃないですか……お2人がイオさんに会うための最短ルートを考えた結果なんですから。」
「2人の為ぇ…?
ミッションは遊びに行くんじゃねーんだぞ!?
これはゲームじゃねーんだ!
戦争なんだよっ!」
「……………。」
周りが沈黙した。
「そっか…私達は、戦争に行く兵隊さんになるってことか……。」
エリーが呟いた。
「今回は戦場に行くわけではありません。
ガンマデルタを狙う者が白銀山に潜伏しています。
ガンマデルタを守るために、その潜伏者を捕まえるのが、今回のミッションです。」
芳志は胸ぐらを掴まれながらも、冷静に答えた。
「相手が大勢いて、武器を持って襲ってきたら?
そこは戦場になるんじゃねぇのか?
ガンマデルタを守る為…。
国を守る為…。
家族を守る為…。
大切な人を守る為…。
戦争するのに“守る為”って付ければ聞こえはいいが、戦争っていうのはな…、人を殺しに行くとこなんだよ!」
ヴァンは今までで一番声を荒げた。
「あんたらはサイボーグにどれだけの業を背負わせるつもりだっ!?」
「……。」
芳志は返す言葉がないのか、何も返答しなかった。
バチーンッ!!
興奮したヴァンの頬に、平手打ちがとんだ。
エフィルの一撃だ。
「何甘ったれたこと言ってんだよ!
当たり前の事言ってんじゃないわよ!
世界は戦争をしてんのよ!
モラルや道徳が通用するとでも思ってんのかいっ!?
サイボーグだけが辛い想いしてるみたいな事言いやがって!
工藤が戦争で婚約者亡くしてる事、あんたも知ってんだろ!」
エフィルがいつも以上に怒鳴りつけた。
「だから何だってんだよ!
同情でもして割り切れって言うのかよ!?」
2人は興奮し掴み合いを始めた。
「ちょっと、もうやめてよぉ〜。」
見かねたエリーが泣きそうな顔で止めに入った。
「うるさいっ!」
「痛っ!」
2人の怒鳴り声と掴み合いに巻き込まれたエリーは、体を弾かれ、尻餅をついてしまった。
「……………。」
一瞬部屋の空気が凍りついた。
尻餅をついたエリーを見て、興奮していた2人が、冷静さを取り戻した。
「す、すまねぇ…。」
「ごめんエリー……。」
ヴァンとエフィルは、ばつが悪そうにエリーに謝り、座り込んでいるエリーに手を差し伸べた。
しかしその手を遮るように、アークがエリーの手を持ち、起き上がらせた。
「女、子供もあったもんじゃない……。
まるで戦争だ…。」
アークがつぶやいた。
女も子供も関係なく、周りが見えず、憎しみでぶつかり合う………アークには、目の前で起こった出来事が、戦争と何ら変わらないと感じた。
「そうか……そういうことか…。」
そして、何故か1人で納得した。
「お兄ちゃん?」
エリーが心配そうに声をかけた。
「あっ…ごめんよ。
謎が解けたんだ。
世界を救うってどういう事か考えてたんだけど、今はっきりと解ったよ。」
アークは確信に満ちた表情でエリーを見つめた。
「救うべくは、“人間の心”だ!」
アークは自分に言い聞かせるように、そして決意するかのように、言い放った。
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