サイボーグ

□第3話
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「うっ…。」
アークは目を覚ました。
あまり気持ちの良い目覚めではない。
「う〜ん…ここは…病院かな?」
寝起きで頭が働かない。
確認すると、点滴や包帯、ギブスなどの治療跡は何もなく、ただベッドに仰向けに寝かされているだけだった。
ドサッ!
アークは重い体を起き上がらせようとした瞬間、体制を崩し、ベッドから落ちてしまった。
「くそぅ…身体が思う様に動かない…。」
起き上がろうにも起き上がれない。
どこかが痛いわけではない。
ただ身体が思うように動かない。
ウィーン。
もがいていると、聞き慣れない機械音がした。
音の鳴った方を見ると、部屋のドアが開いていた。
機械音はドアが開いた音だった。
部屋の外から2人の人影が入ってくるのが見えた。
寝そべっている為、2人の足元しかみえない。
「ここがお兄さんの部屋ですよ。
……おや?
姿が見えませんねぇ…。」
中年ぐらいの男の声が聞こえた。
「あっ!
あそこっ!
人が倒れてるっ!」
次は小さな女の子の声がした。
「まさか……エリー…?」
と、アークが小さくつぶやいた。
しかしすぐにそれは間違いだと思った。
盲目のエリーが、倒れている自分を見つける事なんて出来ないからだ。
「お兄ちゃん?
お兄ちゃんなの?」
女の子はアークの側まで来て座り込み、アークに触れてきた。
アークは顔を上げ、女の子の顔を確認しようとしたが、少し目がぼやけて、焦点が合わない。
「エリーなのかい?」
アークは半信半疑で訪ねた。
「そうだよ!
エリーだよ!
良かった…本当にお兄ちゃんだ!」
エリーはアークに抱き付いた。
「そうか…良かった…。
エリーも助かったんだね…。」
「うん。
サイボーグにならなかったら、死んでたみたいだけどね。」
「サイボーグ?
何だい…?
サイボーグって…?」
アークは理解に苦しんだ。
そしてエリーの方を見つめ、目の焦点が合うと同時に絶句した。
顔はエリーの面影があるが、目と髪の色が、藤色になっていたからだ。
サイボーグの一番わかりやすい特徴だ。
「エリー……君はサイボーグになったのかい?」
アークは聞きたくない真実を、エリーに訪ねた。
「うん…。
私だけじゃないよ。
お兄ちゃんもだよ。」
「っ!?」
察しはついていたが、実際に聞かされるとショックは大きく、アークは言葉を失った。
「アークさん…そのままでいいので、私の話を聞いてくれますか?」
突然、エリーと一緒に来た男が話し掛けてきた。
「構いませんが……あなたは?」
頭の中は、まだ整理が出来ていないが、アークは男の質問に答えた。
「紹介が遅れてすいません。
私はΩ社ガンマデルタ支店グランドラゴン総責任者、兼あなたの担当になる、工藤 芳志(くどうほうし)です。」
工藤芳志と名乗った男は、丁寧な言葉遣いで、アークの質問に答えた。
アークの目線に極力近づける為に、芳志はしゃがみ込んだ。
「ご丁寧にありがとうございます。
もう知っているようですが、僕はアーク・アースと申します。
もし良ければ、僕をベッドに座らせてもらえませんか?
この体制で話を聞くのもどうかと思いますし。」
アークは苦笑いをうかべながら、芳志同様に丁寧に話した。
「わかりました。」
芳志は肩にアークの脇を掛け持ち上げた。
そのままベッドに座らせたが、アークの身体はコテンっとベッドに寝ころんでしまった。
「私が支えててあげる。」
エリーがそう言って、アークの身体を支える様に、真横にピタリとくっ付き座り込んだ。
「ありがとうエリー。」
アークはエリーの頭を撫でてあげたかったが、うまく手を動かすことが出来なかった。
……もどかしいな…。
「それでは、話を聞きましょうか。」
芳志はアークの前に椅子を置き、それに座った。
「はい…。
まず私はあなた方に謝らなければなりません。
何も関係のないあなた方を、サイボーグの戦闘に巻き込んでしまいました。」
そう言うと芳志は席を立ち、床に両膝と両手をつけた。
「あなた方には取り返しのつかないことをしてしまいました。
本当に申し訳ありませんでしたっ!」
芳志は額を床にこすりつける様に、頭を深々と下げた。
アークの頭にサイボーグとの戦闘が浮かび上がった。
アークにとっては、過去最悪の思い出となった光景…。
「そこまでしなくて良いよぉ。
芳志さんが悪い訳じゃないんだから。
ねぇ?お兄ちゃん?」
エリーは芳志の行動に慌てた。
10歳のエリーにとって、大人の土下座は衝撃的だった。
「駄目だよエリー。
絶対に許しちゃいけない。
僕達の様な被害者を二度と出さない為にも、僕達が許してしまってはいけないんだ。
そして工藤さん達は、その罪を一生重く抱えていかなくてはいけない。」
アークは冷静に、しかし力強く言った。
「でもぉ〜…。
こんなに謝ってるんだし。」
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