サイボーグ

□第4話
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2147年1月3日午前8時頃。
アークが目を覚ます12時間ほど前。
目覚めたエリーが突然ベッドから体を起こした。
ゴスッ!!!
と同時に辺りに鈍く大きな音が鳴り響いた。
「いったーーいっ!!!!?」
「いててててっ!?」
次の瞬間、同時に痛みを訴える声があがった。
「ちょっとぉ〜いきなり起きあがらないでよぉ〜。」
「いてててぇ…うぅ、ごめんなさいぃ。」
エリーの様子を見にきた、白衣を着た女性が、エリーの顔色を伺った瞬間の出来事だった。
「本当にごめんなさい…。
私、目が覚めると同時に体を起こす癖があるのぉ。」
「いやいやもういいよ……お互い痛い思いしたんだし、痛み分けって事で。」
お互いおでこをさすりながら話した。
……。
しばしの沈黙の後…。
「え〜と…私はサイボーグになったんですかねぇ?
あなたはお医者さん?」
エリーが白衣の女性に訪ねた。
と言っても、エリーには目の前の女性が白衣を着ている事なんてわからなかった。
目が見えないのだから。
「えらく認識が早いのね。
目覚めてすぐサイボーグだってわかるなんて。
私はお医者さんじゃないわよ。
科学者のエフィル=ドラッグ。
あなたを担当させてもらうわ。
よろしくね。」
エフィルと名乗った女性は、髪はショートで顔は目鼻立ちが良く、綺麗に整っている。
サバサバした性格で、言葉遣いや気性が男性的で、“男らしい”という言葉がよく似合う女性だ。
「よろしくお願いします。」
エリーは丁寧に頭を下げた。
「サイボーグの事は目覚める前にエディっ……!?」
エリーは突然言葉が詰まった。
(エディーさんに聞いたから、知ってました。)
と言うつもりが、詰まってしまった。
「どうしたぁ?
大丈夫かぁ?」
「う…うん。
(エディーさんの事は言えない様になってるのかなぁ?)
なんだかまだサイボーグの体に慣れなくて。」
エリーはとっさに誤魔化した。
直感的にエディーの話はしてはいけないのだと感じた。
「へぇ〜。
シンクロ率95%でも、言葉が詰まることもあるんだねぇ〜。」
「シンクロ率?」
「あぁあんまり気にしないで。
説明面倒だから、明日の説明会の時にでも学んで。」
エフィルは面倒くさそうに言った。
「私がとりあえずあんたに教える事は、今は1つだけ。
エコロケーションについてだけよ。」
「エコロケーション?
イルカさんとかの能力の?」
「そうそう、さすが天才だねぇ。
そのエコロケーションの能力を、あんたのボディーに組み込んだんだよ。」
「エコロケーションの能力を?
その能力はどうやって使うの?」
「“エコロケーション能力の起動”って頭の中で命じてみて。」
エリーは言われた通りにやってみた。
すると身体全身を通して感覚が研ぎ澄まされたかのように、驚くほど敏感になった。
近くにあるものから部屋の壁まで距離感が感じられ、どこにどういった形の物があるのかが、手に取るように感じられた。
「すごい…。」
「ちゃんと感じ取れてる?」
「う、うん……。
感じる…。」
それは“見る”というより、“感じる”という表現の方がふさわしかった。
「ひとまず成功って訳だね。
エコロケーションの機能は、今まで成功したためしがないんだ。」
「そうなんだ。
私の様な盲目の人達には、すごく希望のある機能だね。」
コンコン。
エリーが感動していると、扉を叩く音がした。
「誰ぇー?」
エフィルが答えた。
「私です。
工藤です。」
「あぁ工藤か…、入ってもいいよ。」
プシャーというエアーの抜けるような音と共に、工藤芳志が入ってきた。
「エリーさんの様子はどうですか?」
「問題ないよ。
エコロケーションも成功してる。」
芳志の問いかけに、エフィルが嬉しそうに答えた。
「それは良かったですね。
お兄さんの手術も無事終わりましたよ。」
「お兄ちゃんっ!?
お兄ちゃんに会えるの?」
エリーが興奮して訪ねた。
「会うのは今晩まで待った方が良さそうですね。
まだ手術が終わったばかりですし。」
芳志は10歳の子ども相手にも、丁寧な口調で話した。
「そうなんだ……。
今晩会いに行ってもいい?」
「構いませんよ。
私と一緒に行きましょう。」
エリーは満面の笑みを浮かべて、ベッドからぴょんと飛び降り、芳志に抱きついた。
「ありがとう。」
「おやおや…。」
そう言いながら、芳志はポリポリと頭をかいた。
「おいおい…、いいおっさんが何子どもに抱きつかれたぐらいで照れてんだよ。」
少し頬が赤らんだ芳志に、エフィルがちゃかしながら言った。
「いやぁ〜照れてなんていませんよぉ。」
芳志はさらに赤くなり、誤魔化した。
「なんなら私が、ガバッと抱きしめてあげようかぁ?」
エフィルがいたずらっぽく言った。
「いえいえ遠慮しときます。
様子を見に来ただけなので、私はこれで失礼します。」
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