サイボーグ

□第7話
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「うっ…僕は一体…?」
アークが目覚めた。
いや、正確には目覚めていない。
辺りは何も見えないが、ただはっきりと意識だけが感じられた。
「この感覚は……。」
アークは一度だけ体験していた。
「エディーさん、いますか?」
そう…、初めてエディーと話した時と同じ感覚だった。
アークは自分の方からエディーの名前を呼んだ。
アークには何故か返事が返ってくる確信があった。
「私の方が呼ばれるなんて初めてだわ。
いや…あなたで2人目かしら。」
確信は現実となり、エディーの声がした。
「エディーさん、あなたには聞きたい事が山ほどあります。」
「まぁまぁ落ち着いて。
私に2度も出会えるなんて、あなたが初めてよ。」
「落ち着いて話していたら、あなた勝手にいなくなるでしょう?」
前回は色んな説明を省かれたまま、エディーがいなくなってしまったから、アークは今回のチャンスを逃したくなかった。
「大丈夫よ。
あなたの意識はもう少し戻りそうにないから、意識が戻るまで付き合うわ。
聞きたい事っていうのは、あなたの能力についてかしら?」
「いや。
エリーの能力についてです。」
以前会った時は、敬語など使っていなかったアークだったが、今回は相手が誰だかわかっているので、丁寧な口調で受け答えしている。
「自分の事より妹の事かぁ…。
エリーちゃんに与えた能力がどうかした?」
「非常識すぎます!
そして危険な能力です!
あなたは何者ですか?
何故あんな能力を与える事ができるのですか!?」
アークは少し興奮気味で言った。
「私自身には人に能力を与える力なんてないわ。
私は人選して仲介しているだけ。
確かにエリーちゃんの能力は使い方次第で大変危険を及ぼす事もあるでしょうし、人に利用されないとも限らない。
だからこそ私はエリーちゃんを選んだの。
あなたが護ってくれることも想定してね。」
「仲介?
あなた以外に能力を与えている人物がいると?」
「“人”じゃないわ。
大いなる意志とでも言えばカッコいいかしら?
まぁ単純に言えば………地球ね。」
「………?」
アークは理解できずに沈黙した。
「地球…?
エディーさんが人選して、地球がその人に能力を与えているということですか?」
アークは素直にまとめてみたが、鵜呑みにはしていなかった。
「そういう事よ。
信じなくてもいいけど、それが事実よ。」
「信じられない……信じろという方が馬鹿げてる。」
アークはつぶやいた。
冗談にしてもセンスがなさすぎる。
「信じなくてもいいわよ。
能力があるという事実だけ受け止めてくれれば、能力の出所なんて、大した意味は持たないわ。」
アークは少し沈黙した。
「いや……。
信じますよ。
信じられるだけの事実はありますし、あなたが嘘をついているとも思えませんから。」
「ありがとう。
年齢を疑いたくなるぐらい柔軟な理解力ね。
やはりあなたを選んで正解だったわ。」
「しかし何故地球が僕達に能力を?」
「能力を与えているというより、望みを叶えているのよ。
望みを叶える代わりにこちらのお願いを聞いてって感じにね。」
「確かに僕の時もそうだった。
エディーさんが僕達にしているお願いというのも、地球の意志ですか?」
「正確には、地球と私の共通の意志よ。
ただ…人類を救いたいということ。」
「それです!
あなたは僕達に世界を救う様に言いましたが、具体的に“世界を救う”とは何をすればいいのですかっ!?」
「それはあなた達に委ねます。
あなたの考えで、思ったように行動してくれれば充分よ。」
「それなら、何から救えばいいのですか?
漫画みたいに悪魔やモンスターがいるわけじゃあるまいし!」
「そうね……私が言えることは、地球の寿命が少ない中、いち早く火星開発を推し進め、移住することが人類に課せられた最優先事項のはずなのに、人類は戦争を始め、火星開発が著しく停滞している……という事ぐらいかしら。」
「確かに……それだったら、戦争が敵なのか?
いや…しかし何故地球は人類を救おうとしているのですか?
地球の寿命を縮めたのも、蝕み続けてきたのも、全て人間のエゴのせいじゃないですか?
人類は地球に恨まれたって仕方がないぐらいなのに……。」
アークの素朴な疑問だった。
地球の想いとは裏腹に、人類は追い討ちをかけるように戦争を始めてしまった。
「私にはわかるわ…。
地球は私達を生み出し、無償で育んでくれた。
私も一人の親として……母親として、地球の気持ちがわかるわ。
どんなに子どもが悪い事をしても、言うことを聞かなくても、親は子どもを見捨てないものよ。」
「そうですか…今人類がやっている事が、如何に愚かな事か痛感します。」
アークは悔しそうに言った。
「火星でも同じ過ちを繰り返さない事を、私も地球も願ってるわ。」
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