サイボーグ

□第7話
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手が止まると、景斗の目から大粒の涙が流れた。
景斗の両手はおれの背中へとまわされ、顔を胸へとうずめてきた。
「怖かった…うっ…怖かったよぉ…ほんとに…ほんとに死ぬかと思った…うっ…うわぁぁ〜。」
景斗はしばらく声をあげて泣き続けた。
「ちゃんと涙でるじゃねぇーか。」
おれはそう言って、景斗を優しく抱きしめた。
もはや鈴も口を出さず、黙って景斗を見つめていた。
………。
しばらくして、景斗は泣き止むと、おれの胸から顔を離した。
おれは景斗の目元に溜まった涙を、優しく指で拭った。
「なんだかスッキリしちゃった。」
くしゃくしゃの顔でしゃがれた声で、景斗は声を絞り出した。
「お母さん、ごめんなさい…今日は仕事出来そうにないや…部屋で休んでるね。」
景斗はそう言って、部屋を出ていった。
………。
「私…母親失格かしら…」
鈴がポツリと呟いた。
「あの子があんなに取り乱す姿、初めて見た…私が気づいてあげなきゃいけなかったのに…」
鈴は悲痛な表情を両手で覆った。
「あいつは…あんたがいるから自分は自由でいられるって言ってたぞ。
あんたがそれに応えてあげないでどうする?」
厳しいとは思ったが言わずにはいれなかった。
この親子が不自由でならなかった。
「ごめんなさい…私、景斗のところに行ってくるわ。」
鈴も部屋を出て行った。
………。
「素晴らしい洞察力です。
感動しました。」
今まで黙って見ていたレックスが突然口を開いた。
全く眼中になかったおれは、突然声がしたので少し驚いた。
「何故、景斗さんの真意が解ったんですか?」
「あれだけ無理してれば誰だってわかるだろ。」
おれは当たり前の様に答えた。
「いいえ。
わかりませんよ…いつも身近にいる工藤博士だって気づかなかったほどですから…。
………いや…わからなくなってしまったのかもしれません…」
レックスの表情が少し曇った。
「そうだろうな…このタワーのやつらは、みんな無理してるようだからな…他人を見る余裕なんてなくなってきてるんじゃねぇか…。」
おれは率直に言った。
「あの〜、提案なんですが、このタワーの全ての人たちの姿をあなたに見てもらいたいのですが…。」
レックスは思いついたかのように、おれに言い寄ってきた。
「おれが見て何になる?」
「あなたの洞察力でタワーの人たちを見てもらいたい。
そしてアドバイスをいただきたい。」
レックスは普段のクールさをなくし、必死に訴えてきた。
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