サイボーグ

□第8話
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エリーが心配そうに言った。
「大丈夫だよエリー。
最近たまにああなるんだ。」
エフィルはそう言って時計を見た。
時刻21時55分。
「やっぱり22時前か…。」
エフィルがつぶやいた。
「22時前がどうかしたの?」
エリーが不安そうに訊ねた。
「最近22時になると、そそくさと部屋に戻るんだ。」
「そういえば、お兄ちゃんが目覚めた日も、22時前に帰ってた。」
「……私ちょっと様子を見て来るよ。
アーク、また明日来るからね。
ほらヴァン、あんたも部屋に戻りなよ。」
エフィルはそう言って、医務室を出て行った。
「やっと邪魔者がいなくなったか。」
ヴァンがつぶやいた。
「邪魔者…?
僕達に何か用でもあるのかい?」
アークが訊ねた。
「ああ。
2人に頼みがあるんだ。」
「頼み?
僕達に出来る事なら力になるよ。」
「すまねぇ。
頼みってのは、2人に…いや、特にアークに、このガンマデルタ支店の“最強”になってもらいたいんだ。」
「最強?」
「おれは近い内に、この支店を抜け出すつもりだ。
その為には、おれが霞む様な、支店最強のサイボーグが必要なんだ。」
「その支店最強ってのはいなくちゃならないのかい?
抜け出すつもりなら、支店の事なんて気にせず出て行けばいいんじゃないのかな?」
「………。」
ヴァンは沈黙した。
「何か理由があるんだね?」
「……。
実は…おれは3年前にガンマの工場長アミン・ドラッグに拾われたんだ。
アミンさんはおれの担当スタッフでもある。」
「!」
アークとエリーは驚いた。
芳志が、サイボーグの担当スタッフに役職は関係ないと言っていた通り、工場長でも例外はないようだ。
「その恩に報いる為、おれはここで頑張ったが……頑張りすぎちまった…。」
「支店最強と言われるまで“支店の顔”になった今、突然支店を抜け出してしまったら、アミンさんの顔を潰す事になる……。
そう言うことかな?」
「話が早いな……そう言うことだ。
どちらにしても、顔は潰しちまうかもしんねーけど、おれの名が薄れれば、少しはマシになるだろ?」
「事情はわかったよ。
でも、その頼みには応えてあげられない。」
「何!?」
ヴァンは何故かアークが引き受けてくれると思っていたので、予想外の返答に驚いた。
「僕達にもやらなきゃいけない事があって、この支店を抜け出すつもりなんだ。」
「……そうか……。」
ヴァンは肩を落とした。
「でも…、その件僕に預けてくれないかい?
うまくいく様に考えてみるよ。」
「期待していいのか?」
「安心して大丈夫だよ。
お兄ちゃんは問題解決のスペシャリストなんだから。」
今まで黙っていたエリーが、嬉しそうに言った。
「そうか…。
じゃあアークに任せるよ。
よろしく頼む。」
ヴァンはそう言って、頭を下げた。
「いいよいいよ。
脱走を企てる仲間同士、仲良くしよう。」
そう言ってアークは微笑んだ。
「ところでヴァン。
キミEタイプだよね?」
さっきEタイプである事を否定したヴァンに、アークは確信を持って訊ねた。
「その通りだ。
よくわかったな。
おれがEタイプである事は誰も知らない。」
「え?そうなの?
でもさっきエフィルさんも、最初はへなちょこで優れた能力なんてなかったって…。」
エリーが首を傾げて言った。
「何も強くなる事だけがEタイプじゃないだろ?
エディーさんは強くなる能力を与えるって言った訳じゃない。
望みを叶えてあげるって言ったんだ。
強くなる以外の望みもあるはずだよ。」
「そっかぁ。
言われてみればそうだよね。
ヴァンお兄ちゃんは、エディーさんに何をお願いしたの?」
「こらエリー!
そこまで詮索しちゃいけないよ。」
アークはエリーを優しく怒った。
「……ごめんなさい。
…ヴァンお兄ちゃん、ごめんなさい。」
エリーは素直に謝った。
「いいって。
今日はもう遅いから、また今度話してやるよ。」
「うん。
ありがとう。」
エリーは笑顔で答えた。
「じゃぁまたな。」
ヴァンはそう言って、医務室を出て行った。
「私も部屋に戻んなきゃ。
お兄ちゃん1人で大丈夫?」
エリーが心配そうに訊ねた。
「エリーこそ1人で大丈夫なのかい?」
「うっ…、だ、大丈夫じゃないけど頑張る。」
「そっか、良い子だ。
心配してくれてありがとう。」
アークは優しくエリーの頭を撫でた。
「うん。
それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
エリーも部屋を出て行き、1人になったアークは、しばらく今日の様々な出来事を振り返り、考え込んでいたが、いつのまにか眠ってしまった。
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