短編夢

□ミートレイン
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電車の扉が閉まる寸前、私は転がり込むように車両に飛び込んだ。


まだそれほど車内は混んでいない。

私は荒れた息のままどっかりと腰を降ろした。


座った瞬間、一気に眠気が沸き上がってくるような感覚に陥る。



今日は予定外の残業だった。

上司のミスを私のせいにされ、私は周りの人間から同情の視線を浴びながら残業することになったのだ。

同情するより手助けしてほしかった。



寝そうになるたびに目をしばたたいては、こくりこくりと何度も首がずり落ちる。



降りる駅まであと15分はある。


ちょっとだけ、と自分に言い聞かせたのを最後に、私は完全にまどろみに身を委ねた。



*





「…あの…」



気のせいだろうか。

隣の人が私を呼んでいる気がする。


いや、そんなはずない。


隣の人が私なんかに用があるわけがないし、そんなことよりも今は眠い。




「あの」



…あれ、やっぱコレ呼ばれてるんじゃないか。

でも勘違いだったら恥ずかしいし、もしかしたら夢を見ているのかもしれない。


いや、でも…


うっすらと目を開けると、私が何かに寄り掛かっていることがわかった。


え…私、何に寄り掛かって…


「すみません、」

「…は、はいっ」


寄り掛かっていたものが人であることがわかり、私は飛び起きた。



ヤバイ、寝過ごした――


慌てて窓の外に視線を巡らせるが、まだ自分の降りる駅が過ぎていないことを確認してホッとする。

しかし安心したのもつかの間、困ったようにこちらを窺ってくる人物の方に意識を向けた。


20代くらいの男性。

その人は苦笑に似た笑顔を作って私を見ていた。



「すっ、すみません、寄り掛かったりして」

「い、いえ。その切符、次の駅ですよね?俺も次の駅で降りるんで…」

「わざわざ起こして下さったんですか!ありがとうございます」


なんてことだ。

この人がいなければ、私は寝過ごしていただろう。


めちゃくちゃいい人だ。


素直に笑顔を彼に向けると、電車が失速し始めた。





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