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□王様的暖の取り方
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一年中雪に覆われているナルシェの寒さは、それは厳しいものだった。
中心部は交通機関や工場を動かすための蒸気で緩和されているが、街から離れてしまえば直接寒波を受けることになる。
暖をとるにはストーブを焚き続けるか、暖炉に薪をくべるしかない。
今日、彼らが泊まった宿屋も、そんな状態だった。

「…さ…寒い…」

布団にくるまって呟いていたのはエドガーだった。
時は真夜中。
いつの間にか消えてしまった暖炉の火に、彼は身体を震わせていた。
羽毛の入ったふかふかの布団だというのに、一向に温まらないようだ。

「寒い、寒い…」

言ったところで寒さ和らぐわけでもないのに、仕切りに呟く。
確かに砂漠育ちの彼にこの気温は辛いだろう。
しかし同じ地で育ったはずのマッシュは、平気で寝入っていた。

「あぁ…寒い…。どうしてこんなに寒いんだ、ロック」

終いには隣のベッドで眠っているロックにまで話しかけていた。
もちろん返答はない。
返事を期待したわけではなかったが、エドガーはなんとなく寂しくなった。
彼は仕方なく、大きな身体を縮ませて隙間の出来ないよう布団をかぶる。
唸ってみたり足を擦り合わせてみたり。
だが効果はないようで、エドガーはまた独り言を言い始めた。

「このままでは凍えてしまう」

エドガーは自分の手に息を吹きかける。
どうやら、起きて暖炉に火を炊こうとは思いつかないらしい。

「なんで彼らはぐっすり眠れるんだ…。まったく信じられん」

エドガーは、同じ部屋で寝ているマッシュとカイエンを化け物呼ばわりしていた。
とにかく喋っていないと気が紛れないようだった。

「…寒い……寒いー…」
「……お前うるさい」

何度目かの訴えに、答える声があった。

「なんだ、ロック。起きてたのか」
「起きてたんじゃない。お前の声に起こされたんだっ」

ロックは小さく批難した。

「寒くてたまらないんだ。どうにかしてくれロック」
「俺に言うな。寒いんだったら服を着るなり暖炉に火をつけるなりしたらいいだろ」
「面倒くさい」
「じゃあ知らない」

ロックはスッパリと断ち切った。彼の冷たい言葉に、エドガーは不機嫌な顔をする。

「だいたいなぜこんな外れに宿をとったんだ」
「仕方ないだろ。空いてなかったんだから」
「お前があそこの宿屋で粘ってくれたらよかったんだ」
「俺のせいかよっ」

ロックは相手をしてしまったことに後悔した。
なにを言っても屁理屈しか返ってこない。普段の優雅で良識的な彼は、どこへいったのか。

「朝になって凍死体があっても驚かないでくれ…」

エドガーは今にも死にそうな声で言った。

「大げさなんだよ、お前は」
「だけど」
「あーもう!いったいどうしたいんだよっ」

じれったくなって、ロックは今出せる最大限の音量で叫んだ。
このままでは一晩中、文句を言い続けてそうだ。
ロックは暗がりで布団に埋まったままエドガーを睨み付ける。
布団から出たくないエドガーは考えてからこう言った。

「ロック。お前も寒いだろう?私が一緒に寝てやろう」
「…それ、一緒に寝て下さいの間違いじゃないのか?」
「…一緒に寝て下さい」
「却下」
「お前、ここまで言わせといてそれはないだろう?」
「お前と一緒に寝ると、なにされるか分からないからな」
「そんな気も起きないよ…」

それきりエドガーは黙ってしまった。
今まで喋っていた人間が急に無言になると返って気になるもので、ロックは聞き耳を立ててみる。
物音はしない。


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