ロック誕生祝賀祭

□二者択一
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「教えてくれれば私たちでも役に立つから」とせがまれたのが数日前。
別に彼女たちは家事をこなしてくれているので十分役に立ってるのだが、可愛く言われては断るわけにもいかず、見分け方や採り方を伝授した。
だがそれは間違いだったと知る。俺は今、窮地に立たされていた。

「えー…。これは何デスカ?」

俺はテーブルに並べられた素晴らしき料理に冷や汗を流した。

「私たちが作ったの。一番最初にロックに食べて欲しくって」

無邪気にリルムが言う。

「いや、でも…」
「美味しそうでしょう?」

ティナに微笑まれて俺は困った。確かにうまそうだ。
見た目は。
でも。

「でもこれ、キノコだろう?」

そうなのだ。
目の前の料理は、どう見ても全てにキノコが入っているのだ。
キノコのソテーにキノコのスープ、キノコ入りサラダ、キノコのリゾット…。
見事にキノコキノコキノコ!
………俺にどうしろと?

「ロックに採り方を教えてもらったじゃない?だからそのお礼に」

セリスが綺麗に笑った。

「……俺がキノコ食べられないの、知ってるよな…?」
「知ってるよ。でも私たちが採ってきたんだから、きっと大丈夫だよ」

無茶苦茶なことを言うリルムに俺はくらん、ときた。
どういう理屈だ。
彼女たち三人は俺の横に立って、俺の一口を待っていた。
笑顔が怖い。
俺の心臓は、危険なほど鼓動が早くなっていた。

「あー……、気持ちは嬉しいんだけどさ」

言葉に迷う。
結局なんと言おうが、食べることは出来ないのだけれど。
さんざん悩んだ挙句、出てきた台詞は芸のないものだった。

「…気持ちだけでいいよ」

ボキャブラリーのなさに自分で落ち込む。

「なに?ロックは私たちが作った料理は食べれないって言うのっ?」
「そんなこと一言も言ってないだろう」
「じゃあ食べて?」

リルムがリゾットの皿を俺の側に近付けた。
ついマジマジと見てしまう。
うわぁ…やっぱりキノコだよ。
山に山菜を採りに行ったのなら、他の物もあっただろうよ。よりによって何故キノコ。
俺への嫌がらせか?
俺は泣きたくなってきた。
どう説明しても、彼女たちは納得しなさそうだ。
大抵のお願いは聞けれるが、こればかりは無理である。
ここはキッパリ断った方がよさそうだ。

「あのさ。悪いけど、キノコだけは勘弁してくれ」

俺が力なく言うと、ティナが悲しげに眉を寄せた。

「私たち、ロックに食べてもらいたくて一生懸命作ったの…」

う…。

「そうよ。味だって工夫したのに…」

ああ…。

「やっぱり私たちが作った料理は食べれないんでしょ!」

だからそんなこと一言も言ってないだろう…?
彼女たちは卑怯だ。
俺がどうすれば断れないか、無意識に知っている。
それでなくても、女性には強く言えないのに。

「…もういい加減あきらめて食っちまえよ」

しびれを切らした声がテーブルの端っこから聞こえた。
食事中は禁煙を言い渡されてるセッツァーが、肩肘ついて不機嫌を隠さずに遠くを見ている。
そうだった。
彼らは俺が食べるまで、お預けをくらってるんだった。

「お前のせいで、いつまでたっても食事にありつけねぇ」

セッツァーは俺を一瞥した。

「そう言うけどなぁ…っ」
「もう待てないクポ」

モグが細い目をいっそう細めて、吊り上がり気味に俺を見る。
ガウは餌を目の前にヨダレをたらし、マッシュやカイエンは何も言わないが半ば呆れてるようだった。

  
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