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□喩え腕が無くとも
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「モールさんモールさん!これ、触ってみて。あ、そっと!」
「なんですか?おや…これは花、ですね」
「そうそう!すげぇ良い匂いでしょっ」
ハンディーと散歩に出ると、彼の感受性の豊かさにいつも驚かされる。彼は私の代わりに沢山の物を見ているし、私に伝わるようにそれを伝えてくれる。それはとても嬉しい、のだけれど。
「ハンディー、……ハンディー?」
「あ、ごめんモールさん!何?」
「いえ……」
せっかく二人で歩いているのに、ハンディーはあっちへ行ったりこっちへ行ったり。私は少し寂しい。悪気がある訳ではないし、そんなことを言われたらハンディーも困ってしまうだろうと思う。でも……

「あ、あれペチュニアだ!おーい」
「え、あっ…はあ」
元気で、そばにいると太陽の暖かさに似たものを感じる。でも太陽は皆に平等に光を与えるから、私が独り占めするような事はできない。彼が私と特別な関係でいてくれると思っているのは、私だけなのでしょうか。
「あら、こんにちはモールさん!ハンディーとデートかしら?」
「う、うるせぇなペチュニア!散歩だよただのっ」
「ええ、散歩ですよ。貴女もどうですか?」
本当は第三者にきてほしくは無いのだけれど、紳士の仮面を被った私は思ってもいないことを言ってしまう。
「うーん、私はいいです。それより…」
「うわ、ちょっ何すんだペチュニア!」
ごそごそと物音が続いた後、不意に私の手に布の感触が。細長い。
「こいつあちこち行っちゃって大変でしょうモールさん?これ持っとけば大丈夫だから!」
「てってめえ、俺は犬か!」
「ふむ、これはいいですね」
「モールさん!!」
私が握る布の先には、ハンディーの腕が繋がっているようだ。なるほど彼のいう通り、まるで犬と散歩しているような感覚にもなった。
「じゃーね!」
「なんなんだあいつ…モールさん?は、離していいっスよ?」
「駄目ですよ、どこいっちゃうかわかりませんから」
「モールさんまで〜…」
いじけた声色が可愛い。包帯のはしっこにこっそりキスして、今度は私が先へ。
「行きましょうか、ハンディー」

すぐに追い付いた彼の隣を歩ける事は、予想以上に嬉しかった。





end

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