HTF小説

□酷い人だ。
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「〜♪」
足取り軽く口笛なぞ吹きながら、俺は愛する盲目紳士の元に向かっていた。
久し振りに会える彼は、元気にしているだろうか。手がないせいで手土産の一つも持って行けないが、彼は俺が来るだけで十分だと言ってくれた。

家の前につき、インターホンを押す……押せない。くそったれ。
どうしようか、窓まで登ったりしてみようか。でも彼に死体で発見されるのは御免だ。
ガチャッ
「……いらっしゃい」
「うぉおっ!な、なんで分かったんスか…」
「君の悪戦苦闘する気配を感じてね」
すげぇ、モールさん。目が見えなくても、それ以上に周りを把握出来ている。普通に生活出来てる。
「入って下さい。お茶でも、どうぞ」
「あ、えっと…すんません」

導かれるまま家の中へ入ると、やはり前と変わらず綺麗だった。

「どうですか、最近」
「えーと…このまえ家の電球取り替えようとしたら死んじまいました」
「それはそれは…大変でしたね」

やはりこの人との会話は心地良い。ホッとするし…何より、赤くなった顔も見られる事がない。
「それで、ハンディーさん…私、貴方にお願いがあるんです」
「なんですか?何か壊れたとか…」
久し振りに彼の役にたてそうだ。何でもしてやろう、どうせ死んでも次の日には生き返るし。

「……キス、を…教えて下さいませんか」
「へっ?」
「私、女の子をデートに誘おうと思って…でも、そういう知識には疎いので、」
「は、はあ……」
これは……キツい。もしモールさんの目が見えて、俺の好意に気付いていたとしたらこんなお願いはされないのに。
「こんなことを頼めるのは…貴方しか、いないんです」
「………ありがとう、ございます」
彼にとって俺は、ただの友達でしかない。この際ハッキリ言いたい、でも駄目だ、彼を困らせたくはない。

相手はギグルスらしい。あれ、あの子カドルスと付き合って無かったか?と思ったけど、まあ気にしない。
「俺だってそんなに上手くないんスけどね」
「感覚がわかるだけでも良いんです、気持ち悪いと思いますが…」
お願いします、と小さな声で言われて、俺は覚悟を決めた。





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