HTF小説

□ヒーローに憧れて
1ページ/2ページ

スプレンディド

僕の心はその言葉を見るだけで、聞くだけで、踊り出す。
あんなかっこいい人は見た事がない。悪は絶対に許さないし、罪のない市民の為にいつでも悲鳴を聞けば駆け付けてくれる。

それで助けてくれるかどうかはまた別なんだけど。



「なんだ…またお前らか。まあいい、ちょっとは楽しませろよ」
「フリッピー…?」
楽しいお祭りの最中に、それは起きた。浮かんでいた風船の一つが破裂して、誰もが一瞬そっちを向く。その後なんだ風船か、とすぐ向き直る人もいるけれど、アレを見た事のある人は、すぐに逃げようとした。

殺戮兵器の軍人が、殺人鬼がやってくる。


最初の悲鳴は彼の隣りですぐに上がった。いつもは何に関しても不器用なくせに、皮肉なことに殺しの才能ばかりが優れている。
僕は殺されまいと必死に逃げた。どうせ最終的には死ぬだろうが、彼が…英雄が来る前に死にたくないから。

「チョロチョロとうぜぇな…逃げ回ってんじゃねーぜ」
「ぅう…っ、スプレンディドー!!」

まだ来ないヒーローの名を呼んだ時、フリッピーは一瞬目を見開いて止まった。

「……てめえ、」
「フリッピー!!」
辺りに響き渡る声。ああ来た。やっと、来てくれた。
「トゥーシー、早く僕に捕まって。逃げよう」
「う、うん!」
彼に抱かれて空を飛ぶのは実際とても快適とは言えない。首を竦めて身体を縮めて…そうしなければ空気圧でバラバラになってしまうから。
でも僕はこれが大好きなんだ。

「怪我は無いかい?」
「大丈夫だよ、ありがとうスプレンディド!」
「良かった。じゃあ私はすぐ戻らなきゃ」

「…どうして?」


そう問うと、彼は苦笑混じりに答えた。

「彼は私でしか止められないんだよ」

一瞬何も考えられなくなってから、何故か目尻が熱くなった。

「なんで、どうして…ずるいっ」
「えっ?ず、ずるいって」
「なんで悪者なのにスプレンディドに構ってもらえるの?なんで"殺す"じゃなくて"止める"なの…?!僕は、僕だって、」

感情が高ぶると泣くのは僕の悪い癖だ。彼に呆れられてしまう、早く泣きやまなきゃ。

「…すまない」
「ぼ、僕こそごめんなさ…」
「いいんだ、悪いのは私の方だ。…良いヒーローとはとても言えない」
「スプレンディドは良いヒーローだよ!」

慌ててつい大声をあげると、スプレンディドは少し驚いてからふわりと笑った。いつもの不敵な笑みではない、柔らかい笑いだ。

「君みたいな子がいてくれて良かった」
結構離れた所に降り立つと、頭を撫でられた。
「約束するよ。君の為に、君が応援してくれる限り…私は戦い、ヒーローであり続けよう」

そして僕が何か言う前に、スプレンディドは飛んで行ってしまった。
ヒーローの癖に、今のは本当に卑怯だと思う。だってそんなことを言われたら、僕は彼にもっと憧れるしかないんだから。

誰もいない丘で、僕は一人鼻血を吹き出して倒れた。





END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ