HTF小説
□ヒーローに憧れて
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スプレンディド
僕の心はその言葉を見るだけで、聞くだけで、踊り出す。
あんなかっこいい人は見た事がない。悪は絶対に許さないし、罪のない市民の為にいつでも悲鳴を聞けば駆け付けてくれる。
それで助けてくれるかどうかはまた別なんだけど。
「なんだ…またお前らか。まあいい、ちょっとは楽しませろよ」
「フリッピー…?」
楽しいお祭りの最中に、それは起きた。浮かんでいた風船の一つが破裂して、誰もが一瞬そっちを向く。その後なんだ風船か、とすぐ向き直る人もいるけれど、アレを見た事のある人は、すぐに逃げようとした。
殺戮兵器の軍人が、殺人鬼がやってくる。
最初の悲鳴は彼の隣りですぐに上がった。いつもは何に関しても不器用なくせに、皮肉なことに殺しの才能ばかりが優れている。
僕は殺されまいと必死に逃げた。どうせ最終的には死ぬだろうが、彼が…英雄が来る前に死にたくないから。
「チョロチョロとうぜぇな…逃げ回ってんじゃねーぜ」
「ぅう…っ、スプレンディドー!!」
まだ来ないヒーローの名を呼んだ時、フリッピーは一瞬目を見開いて止まった。
「……てめえ、」
「フリッピー!!」
辺りに響き渡る声。ああ来た。やっと、来てくれた。
「トゥーシー、早く僕に捕まって。逃げよう」
「う、うん!」
彼に抱かれて空を飛ぶのは実際とても快適とは言えない。首を竦めて身体を縮めて…そうしなければ空気圧でバラバラになってしまうから。
でも僕はこれが大好きなんだ。
「怪我は無いかい?」
「大丈夫だよ、ありがとうスプレンディド!」
「良かった。じゃあ私はすぐ戻らなきゃ」
「…どうして?」
そう問うと、彼は苦笑混じりに答えた。
「彼は私でしか止められないんだよ」
一瞬何も考えられなくなってから、何故か目尻が熱くなった。
「なんで、どうして…ずるいっ」
「えっ?ず、ずるいって」
「なんで悪者なのにスプレンディドに構ってもらえるの?なんで"殺す"じゃなくて"止める"なの…?!僕は、僕だって、」
感情が高ぶると泣くのは僕の悪い癖だ。彼に呆れられてしまう、早く泣きやまなきゃ。
「…すまない」
「ぼ、僕こそごめんなさ…」
「いいんだ、悪いのは私の方だ。…良いヒーローとはとても言えない」
「スプレンディドは良いヒーローだよ!」
慌ててつい大声をあげると、スプレンディドは少し驚いてからふわりと笑った。いつもの不敵な笑みではない、柔らかい笑いだ。
「君みたいな子がいてくれて良かった」
結構離れた所に降り立つと、頭を撫でられた。
「約束するよ。君の為に、君が応援してくれる限り…私は戦い、ヒーローであり続けよう」
そして僕が何か言う前に、スプレンディドは飛んで行ってしまった。
ヒーローの癖に、今のは本当に卑怯だと思う。だってそんなことを言われたら、僕は彼にもっと憧れるしかないんだから。
誰もいない丘で、僕は一人鼻血を吹き出して倒れた。
END