03

□始まりのバショ、キミとボク。
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 ふと足下に転がってきたサッカーボール。ああ、これが慧梨夏のよく言ってる「スイマセーンのシチュエーション」ってヤツか。転がってきた方向を見れば、コイツを追って駆けて来る中学か高校生くらいの男子。

「スイマセーン!」
「……よっと」

 弾む力をなくしたそれを足裏からつま先で浮かせ、そのままボレーでダイレクトに駆けて来るその子に返してやる。サッカーボールだ、それくらいはしてもいいだろう。高校の頃、バスケットボールでそれをやって慧梨夏にこっぴどく怒られたのも遠い昔のことのように感じる。

「ありがとうございまーす!」

 ここはこの辺じゃ割と大きい芝生のある公園で、子供から大人までいろんな人がいる。昼はママコミュを築いた奥様方や遊びまわる子供たち、それにお散歩中のお年寄り。夜になるとスケボーとかその他もろもろを抱えた少しチャラい連中や酔っ払いのサラリーマンまでいろんな人が行き交う空間。

 しかしこのクソ暑い中相手もないのに一生懸命リフティングなんかやっちゃって、ぽんぽんボールを浮かせる彼はよっぽどのサッカー少年なんだろうな、などと思いながらベンチに腰掛ける。もちろんそこは木陰。
 まあただ、小学校1年でサッカーに魅せられた俺としては、それくらいの年代のあるべき姿がまさにこれなのかと思ったりして。つい何となく目で追ってしまっていたんだ。どうせ向こうはリフティングに夢中で気付かないサ。

「……またか」

 しばらくして、また俺の足下にころころボールが転がってくる。

「スイマセーン!」
「よっと」
「ありがとうございまーす!」

 さっきと同じようにボールをパスしてやると、それを浮かせたままぺこりと一礼。器用なことしやがるなぁ、ちきしょい。見ている限りじゃ結構上手いと思うんだけど。何て言うかこれは俺だけかもしれないけど、見ていて飽きない。

 携帯を取り出して受信していたメールに返信してやれば、再び視線はリフティングの少年へ。しかしよく続くなぁ。リフティングがって言うか、むしろこの暑い中よくそんなに活動できるなといった感心の方が大きくなってきた。
 俺なんて木陰で座ってるだけでも暑くて死にそうなのに――…って。意識してなかったけど、ひょっとして俺が今座ってるベンチに置いてある荷物はこの子のか?いかにもなタオルとスポーツドリンク。

 おーい、あんまりムチャすっと倒れるぞー
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