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□華麗なる女帝のさじ加減
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 これだけは誰にも負けない自信がある。圭斗をも認めさせたうちのカレーは相変わらずいい出来だ。久々の自炊。時期が時期だけど、ちゃんと冷蔵庫に入れておけばきちんと保管は出来るだろう。
 毎年恒例になった夏風邪は治りがけ。外に出るのも面倒だけど、買い物をして、調理して。とりあえずは目の前の夕飯だ。麦と白米の割合が2:1くらいになっているご飯にかかるカレールーの香りが我ながら食欲をそそる。

「では今日も、いたーだきーま……」

 ただのメルマガの音だったらそのまま放置していたであろう携帯電話。ただ、LEDは濃青に光り、音楽も人物によって固定されている曲が流れている。よりによってこんなときに。

「ったく」

 ご飯をすくいかけたスプーンはそのまま右手に、とりあえずは電話に出てやることにした。電話の主が今現在どこにいて、何をしているかは知っていたから。

「人の夕飯の一口目を未遂にする辺り、相変わらず空気は読めない男だな」
『申し訳ございません菜月先輩、夕飯の最中でいらっしゃいましたか。どうしても菜月先輩に相談したいことがございまして』

 電話の相手はLEDの色と音楽が示した通り、ノサカだ。

「で、相談ってのは何だ」
『あの……現在、対策の会議中なんですけど』
「それは知ってる。初心者講習会の季節だな」

 1年生を対象にした初心者講習会。うちも去年、技術向上対策委員会で、つまり運営側として参加したから何となくわかる。けど、このタイミングでその委員会に所属するノサカからの電話、いい予感はしない。

『それが……アナウンサー講習をお願いしていた方にドタキャンを食らいまして……それで、菜月先輩に初心者講習会のアナウンサー講師をお願いしたく思いまして……』

 予感が的中して、思わず電話を落としそうになった。確かに初心者講習会の講師とかっていうのは身内や名の通ってる先輩に声がかかる傾向が強いとは言え、知ってるぞ、今年の初心者講習会がいつ行われるかくらいは。

「明後日だろ! 今日を含めてあと2日しかないじゃないか」
『無理を言っているのは承知です! でももう俺たちには菜月先輩しかいないんです…!』

 電話越しのノサカの声がいつになく切迫していた。おそらく現場の空気はもっと切迫しているだろう。アイツらが元々誰にアナ講師を依頼していたかは知らないけど、急にドタキャンするヤツもヤツだろう。

「で、何をすればいいんだ?」
『引き受けていただけるのですか…!?』
「時間がないんだろ? 対策がうちに求めることを言え」
『はいっ! ありがとうございます!』
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