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□君に捧ぐブルーサファイア
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 今年もこの季節がやってきた。夏の暑さが少し和らぎ、秋に向かってきたのかなと思う9月下旬。そろそろ外に出るにもいい季節だし、なかなか外に出ようとしない彼女と外に出かける口実もある。
 たまには外でデートでも。この誘いに一瞬慧梨夏は表情を歪めた。よっぽど外に出たくない事情でもあったのだろうか、それともただ単に面倒だったのか。だけど、お前の誕生日くらい、という一言であっさりと納得してくれた。

 慧梨夏は常々趣味にかまけている。それこそ俺が周りから同情されるくらいに。とは言えナンダカンダで俺も自分の趣味にかまけていたりする。だから放置プレイ云々に関しては案外人のことは言えない。
 誕生日を特別なイベントとして位置づけているのは、滅多に外に出ることの無い俺たちが、たまには外で――という部分が少なからずある。付き合い始めた記念日となる11月13日にしてもそうだ。

 あくまでも「デート」を演出するため、わざわざ駅地下の噴水で待ち合わせをしてみたり、酒を飲むこともあるだろうと移動手段は電車。互いのバイクや車は封印して。
 前々から考えていたデートプランは一応頭の中にはあるけれど、脳内キューシートの通りに行くかどうかの保証は無い。たとえ俺がどんな名ミキサーだとしてもだ。
 ただ、わからないのが逆にいい。俺の立てたプラン通りに行くとは思わないし、いつだって俺の予想の斜め上をいく、それが宮林慧梨夏だとわかっているから。どんな風に期待を裏切ってくれるのかが楽しみで仕方なかった。

 慧梨夏と付き合い始めて今年で5年になろうとしている。高校1年の頃からだから、我ながらよく続いているなあと思う。だけど、元々女の子がニガテな俺は、今更慧梨夏以外の女の子を恋愛対象として好きになれるとも思わない。
 よっぽど慧梨夏に愛想を尽かされることが無い限り別れを切り出すつもりはない。迷惑だろうと思うけど、すでに将来設計の中にも組み込まれている。それくらい俺は慧梨夏に対して本気だ。

 定例会で圭斗と会っていると、向島の連中の話を聞いたりする。その中で、野坂がよく「早く就職して大事な人や家庭を守れるような力を付けたい」といったようなことを言って鬱になってる、と圭斗は苦笑していた。
 だけど俺には野坂の言わんとするところがわかるし、何より、野坂のその言葉は俺にも係っているのだと。俺自身はいい。最悪、慧梨夏だけでも。圭斗には、野坂も早くなっちさんと上手くいけばいいな、とだけ返しておいた。
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