03

□Slow Communication
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「はい、そんじゃ今日は解散。お疲れっしたー」
「「お疲れ様でしたー」」

 高崎先輩の閉めで一先ずは解散となる緑ヶ丘大学放送サークルMBCC。ここから夕飯に行くか、直帰するかに分かれることになる。高崎先輩やカズ先輩、タカティなんかは夕飯に行く率が高い風に思う。

「じゃあ飯行く奴ー」

 例によって高崎先輩の声がかかる。何をするにおいてもまずは高崎先輩の声からアクションが起こるのがMBCCの現状。高崎先輩のこの声に、飛んでくる声。タカティだ。

「エイジ、今日はどうするの?」
「あー、俺今日は自分ン家に帰るわ」
「そう? じゃあお疲れー。高崎先輩、俺も行きます」

 エージは、自分の家に帰らずよくタカティの部屋に転がり込むようになったらしい。初心者講習会の前まで、6月くらいかな? それくらいまでは傍から見てもわかるくらいにめちゃくちゃ仲が悪かったのに、どうしてこうなっているのやら。MBCC七不思議に数えてもいいくらい。
 ただ、そうやってエージが転がり込んでくることをタカティが迷惑そうにしている様子は無いし、むしろ歓迎しているかのようにも見える。他校生も含めたハナたち1年生や、高崎先輩とかカズ先輩たち3年生もタカティの部屋によく遊びに行っているみたい。言わば溜まり場。

「さーて、自分ン家に帰るかな。乗り継ぎとの戦いだ」

 エージは向島エリアの隣、山浪エリアの山間部から2時間とかそれっくらいをかけて大学に通学しているらしい。それこそ山間部だから、電車やバスは1時間に1本とか2本あればいいくらい。向島エリアにいる間もタイミングが悪ければ乗り継ぎで40分待ちとかはザラらしい。
 そんなこともあってなかなか家に帰るのも、家から大学に出てくるのも面倒臭がっているエージにとって、大学から比較的近場の街に住んでいるタカティの部屋に転がり込めるというのはいいことだったらしい。こないだなんか、起きる時間が2時間遅いことに対する幸せを説いていた。

「ハナ、お前はどーすんだっていう」
「ハナは例によって直帰ですよ。今日はもうパンのストックないし今からご飯作らなきゃだけど」
「ふーん、同じ一人暮らしでもこうも違うモンか」
「えっ?」
「いや、こっちの話だ」

 きっと、思い浮かべているのは暢気なあの黒縁メガネの顔だと思う。

「エージ、乗ってきなよ」
「いつもどーも」

 これからご飯に行くという先輩たちとは別れ、自分の車を停めているだだっ広い裏駐車場へと向かった。
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