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□とりあえず最終通告
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「足りないね、例によって」
「足りてないっすか」
「うん、ギリギリ」

 出席数のボーダーは欠席6回。今現在そのボーダーの上にいると思ってたんだけどな。何がどう間違ってそのボーダーを上回ってしまったのかは自分でもわからない。欠席数はちゃんと計算してたつもりでいただけに、読みが外れたのはちょっとショックだ。

「高崎君の欠席回数自体は5回だけど、クリスマスボーナスで1回チャラになってるから実質4回だね」
「全然余裕じゃないっすか」
「忘れてないよね、45分以上の遅刻は欠席0.5回換算なの。0.5かけることの5回で2.5回。だからトータルで欠席は6.5回」
「マジすか」

 安部ちゃんが淡々と言う言葉に、俺も淡々と返事をする。ゼミにあんまり来てなかったのも、遅刻がちだったのも事実には違いないからだ。反論はしない。反論できるだけの材料がないからだ。
 緑ヶ丘大学のセメスターは14回の講義で構成される。ゼミは通年だから28回だ。春秋で合わせて欠席できるのは6回まで。ただ、これはあくまで安部ゼミ基準であることを念頭に置いていただきたい。
 今日のゼミの後で呼び出された安部ちゃんの研究室に漂うのは黒糖の甘い香り。例によってかりんとうを食べながら論文を書いているのだろう。いつか本当に糖尿になるんじゃないか。

「でも今年は結構ボーナスチャンスあげてたつもりなんだけどね。ハロウィンボーナスとか」
「クリスマスの件はともかく、ハロウィンの件は聞いてなかったっすね」
「ハロウィンの件が伝わらなかったのは、飯野君も学祭で忙しい時期だったからだろうね、うん。まあ、それを抜きにしてもゼミには来てもらいたいんだけど」

 うちのゼミの何が緩いって、ゼミの時間に普通にパーティーをやってしまうところだ。元々安部ちゃん自体が祭好きだ。そういうイベントごとには便乗しがちな面が見られる。もちろん本来やるべきことである勉学も手を抜かない。
 ハロウィンだのクリスマスだの、そういうイベントで行われるパーティーでは、安部ちゃんからのボーナスとして出席1回分がプレゼントされることがある。あくまでも就活だのなんだのっていう理由でゼミを欠席する際の保険というのが正しいボーナスの使い方だ。

「まあ、このままじゃちょっと厳しいねえ」
「つっても出席回数なんかもうどうしようもないじゃないすか。今日が最終日だったんすから」
「そうだね」
「そうだね、って」

 どーしろって言うんだ。まあ、最終通告なのは理解したけど。
 まあ、お茶でも飲んで行きなよという言葉に甘えて、濃いめの緑茶と黒糖かりんとうをいっしょにいただいて。
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