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□そして僕は北極星を探す
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 自分たちの力でどうしようも出来ないときは、素直に先輩の力を借りる勇気を持つことも自分たちの力だと思おう。それも、問題解決へ踏み出している前向きな一歩なのだから。
 とてつもない自己嫌悪で押し潰されそうになっている中、先の会議で啓子さんが言ってくれた言葉を力強く反芻して。俺たちはあまり来ることのない、洒落たビルの前で先方を待つ。指定された時刻は午後2時。今はその時間ちょうどだ。

「野坂君、久し振り」
「石川先輩、わざわざありがとうございます…!」
「とりあえず、6階の例の部屋に行けばいいのかな?」
「そうですね、行きましょう」

 石川先輩は、俺たちの前の代の対策委員で機材管理担当だった方だ。インターフェイスの機材に関しては石川先輩か、定例会の委員長で現IFナンバーワンミキサーの伊東先輩に聞くのが確実だろう。
 何を隠そう現対策委員、インターフェイスの機材が仕舞われている場所や、どういうセットになっていて夏合宿には何を持っていくべきかというところの把握が全く出来ていなかったのだ。
 合宿ももうすぐなのにさすがにこれではマズいと石川先輩に泣きついたところ、快く相談に乗ってくれて現場にも出向いていただいたことには本当に感謝してもしきれない。

「でも、IFの機材ならファンフェスで使ったんじゃないの?」
「それがですね、圭斗先輩が仰るには今回のファンフェスでは星大の機材を使ったということでして」
「ああ、確かにそんなことを言ってた気がするな」
「機材に関して定例会はノータッチだから前の対策に聞くのが確実だと助言をいただきました」

 石川先輩があまり納得されていないような表情を浮かべている。定例会主導のイベントで星大の機材を使うとか何のためのIF機材だ、と。使わなかったのは百歩譲るとしても、それでも最低三役と機材管理の人間は機材がどうなっているのか把握しておくべきじゃないかと。
 しばし定例会に対する愚痴と機材に関する話が続いた。俺の知る冷静で優しいというイメージの石川先輩とは少し異なり、ちょっと熱くなっているという印象。ただ、我に返られると持ち前の冷静さが一瞬で戻ってくる。
 見苦しい話を聞かせて申し訳ない、と一礼。その辺は野坂君じゃなくて伊東に言わないといけないよね、と場合によっては定例会の振りかざす「大人の事情」へ抗議する気は満々のようだ。
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