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□ダブルスターの影ひとつ
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「おはよーございまーす」
「おはよー果林」
「おはようございます」
「おはよータカシ」

 サークル室に続々と集まってくるメンバーたち。4限も終わって、活動時間が近付いてるんだなあと気付く。俺は4限がなかったからその時間でいろいろすることをしていたけど、音源の編集って時間の経過に気付けないな、やっぱり。
 ヘッドホンを外して、外の状況に目を向ける。今日も果林は元気にパンを食べているし、タカシは隅っこの方で大人しく座っている。そろそろ機材の電源もイチから一人で入れさせてみようか。
 続々とメンバーがやってくるのを出迎えていたけど、空気が締まらない。春の陽気のようにぽかぽかふわふわしたこの雰囲気に芯が通らない。やっぱり春だからかなあ。

「いっちー先輩、高ピー先輩遅いですね」
「ホントだね。また8号館かどこかで寝てるのかな」
「春にそれはかなりマズいですよ。絶対起きないじゃないですか高ピー先輩」
「そうだね、携帯に電話してみる? 効果ないだろうけど」

 電話をしてみようとポケットから携帯を取り出すと、逆に音が鳴り出す。誰からだと思えばそれは自分の彼女からで、この曜日、この時間はサークルがあると知っているはずの彼女が何の用事だと、とりあえず電話を取る。

「もしもし慧梨夏、どうした?」
『高崎クンからカズにって伝言もらってたの忘れてた』
「高ピーから? 何て?」
『今日サークル行ける気しねぇから、時間になっても俺が来なかったら勝手にやっといてくれ。だって』
「それどーゆーコト?」
『熱出て起きれないって3限のノート頼まれてさ。それで今の伝言もらったの。相当ヒドそうだったよ』
「ふーん、わかった。じゃあそういうことで」

 高ピーと慧梨夏は同じ学部学科で、割と同じ授業を取っていることも多い。講義ノートを頼んだという伝言と、その慧梨夏の彼氏である俺に対する伝言を1度で済ませたんだな。さすが高ピー、1番効率的な方法をわかってるな。
 ――って感心してる場合じゃない。そうか、空気が締まらない原因は高ピーがいないからだったんだ。そりゃそーだよな。芯が抜けちゃってんだ。
 時間になっても俺が来なかったら勝手にやっといてくれ、だって? もう時間じゃん。そうか、今日のサークルは俺が仕切らないといけないのか……どーすりゃいーんだよ。
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