03

□とある土曜日のウタ
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 その揺れに逆らうことはしない。カタンカタンと揺られながら、意識はずっと上の方。閉じた目を開くのも面倒だし、ここがどこであるのかはそのうち車内アナウンスが教えてくれるだろう。

「次はー」

 ほら。いい感じの場所にたどり着いた頃にちょうど目が覚める。俺ってすごいなー、やっぱ慣れてきてるな電車通学に。

「鳴海台西ー、鳴海台西ー」

 ――ってちょっと待て、ここはさっき通り過ぎたはずだ! ひょっとしてまたやらかしてしまったんじゃないか。あれだけ重かった目を開けると、やっぱりか。
 大学に向かっていたはずなのに、目的の駅どころか終点すら折り返して、まさに家路に向かう電車に変わってたとか。それに気付いて急いで降りようにも扉は残酷に閉まる。
 幸いここが地下ではなく携帯の電波が入るということで、ポケットに押し込めていた「彼女」を日の当たる場所へ。開いたディスプレイには14時25分と表示され、俺がすでに待ち合わせから25分遅刻していることを告げる。

 どうして授業のない土曜日に大学に出てきているのかと言えば、サークルの都合上。
 向島大学放送サークルMMPでは、定期的な活動として食堂での昼放送を行っている。MMPのそれは収録番組だから、事前にMDに録音しなければならない。俺の収録日は土曜日。つまりそういうことだ。
 本来なら平日、授業の合間とかに収録出来る相手とペアを組むことが好ましいとされるんだけど、人数や時間割の都合上なかなかそう上手くはいかない。
 俺の相手となるアナウンサーは、去年秋学期に引き続いて菜月先輩に決まった。暗黙の集合時間は午後2時にサークル室。時間に厳格な菜月先輩を怒らせるのは毎週のこと。どうやら新学期になっても健在のようだ。我ながら本当に最低だと思う。
 遅れるならせめて連絡くらいしろというお叱りも受けてきた。それも何度かわからない。遅れてしまった旨のメールを打とうとすると、彼女からの悲鳴。

「うわあああがんばれっ!」

 充電してくださいという悲痛な叫び。どうして昨日の夜に充電しなかった俺!

「ちょっサ行電源っ!」

 せめて「遅れます」という一文だけでも届けとボタンを連打。ただ、「す」を打とうとして押していたのは3ではなく電源のボタン。メールは送信されることなく破棄され、そして彼女は事切れた。仕方ない、自業自得だ。今学期最初のお叱りを受けよう。
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