03

□宿る情熱のシークエンス
1ページ/13ページ

 8月某日午後5時、星港駅前ロータリーに見覚えのある姿。ちょうど1年前も似たような光景を見たなと思いつつ、今年は大荷物を抱えてはいないし、今俺が動かしている車の中にしても、機材を詰め込むだけ詰め込んだ圧迫感はない。
 クラクションを1回、その3人組の前で鳴らして助手席側の窓を開ける。乗れよと。おじゃましまーすと勢い良く後部座席のドアが開くやいなや山口が飛び乗ってきて、この空間が一気に賑やかになる。
 助手席のドアが開くことはなかった。そのドアの前で高崎と福島さんがどうぞどうぞと譲り合っているようだ。去年の今頃は助手席の譲り合いなんて見ることのなかった光景。そこは奥村さんの指定席だったから。

「石川クン、お願いします」
「よう性悪、久し振りだな」
「結局高崎が助手席になるんじゃないか。よし、じゃあ行くか」

 そして動き出した車で向かうのは、向島インターフェイス放送委員会の夏合宿が開かれている某所青年の家だ。去年と同じ会場で助かったのは、カーナビにはその施設を消さずに登録してあったところだ。
 その青年の家に何の用事があるのかと言えば、夏合宿2日目夜から始まる番組のモニター。班で制作した番組の批評会みたいなもの。合宿参加者だけじゃなくて、インターフェイスの人間なら誰でも聞きに来ることが出来る。
 去年、俺たちは技術向上対策委員会としてその夏合宿を開く側の立場にいた。この車の中にいる4人のメンバーと今年も合宿に参加している奥村さん、そして今は夏休みで地元に帰っているという長野の6人で。
 あの頃はまさか翌年の今、こうやってその夏合宿を見に行くところに至るとは思いも寄らなかった。ただでさえ俺は普段のサークルでも幽霊部員の立場をキメているというのに。

「なーんかこーやって石川クンの車に乗るのも懐かしいよねよねー」
「ホントだね」
「俺もこういうので車を動かすのは久々だ。サークルもそんな行けてないし」

 前対策委員で唯一の車持ちである俺がドライバーになるのは当然の流れだった。去年の合宿当日はその施設近くに住んでいて現地集合だった長野を除く5人とIFの機材を積めるだけ積んで走った。
 基本、後部座席の山口と福島さんが話しているのを聞きながら、という感じで。助手席の奥村さんと、窓側を頑なにキープする高崎が無言を決め込んで、己と戦っているという光景が蘇る。

「高崎、酔ったら言えよ」
「もう酔ってる……」
「――ってお前、もっと早く言え!」

 車だろうと電車だろうと、閉じた乗り物では乗り物酔いに襲われる高崎の体質がまためんどくさかったのを思い出す。それは高崎だけではなく、奥村さんも同じだったのだけど。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ