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□僕の手首は忙しい
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 相変わらずふらふらとしているようだけど、一応ギリギリながら卒業は出来ることになったらしい村井サンからの誘いで男二人、水入らずで飲むことになった。
 立ち話や気紛れから村井サンと食事をしたりすることはあったけど、こうやって改まって飲むということはあまりなかったような気がする。麻里さんがいらっしゃらないということもある。

「それじゃ〜! 俺の卒業決定を祝って〜かんぱーい!」
「おめでとうございます」

 とりあえずは定番の生中から。ジョッキをコツンを合わせ、愉快な会食の始まりを祝う。卒業が決まったとは言え、別れの時が来るとは思えない。村井サンはそんな不思議な雰囲気のある人だ。

「でも、よく卒業出来ましたね」
「卒論はコピペ頑張った。あとは菜月からもらったノート様々です。超わかりやすかった。圭斗、お前は最近どうよ」
「僕はまあ、至って普通ですよ」
「就活か」
「まあそんな感じですね。村井サンは」
「俺はバーッと旅したり、遊んでますよ」
「でしょうね」

 季節柄もなく少し焼けた肌がそれを物語っていた。きっと南方へ行っていたのかもしれない。今のうちにやれることはやっておこうという、この時期の4年生心理だろう。
 僕はと言えば、この時期の3年生らしく就職活動をしていたり、空いた時間にはバイトをしたり友人と遊んだり。多少スーツを着る機会が多いくらいで、ごく普通の長期休暇の過ごし方をしている。
 去年までならサークル活動があったからもう少しそっちに時間を割いていたのだけど、サークルを引退した今となってはもう。後輩たちの動向を風の噂で聞くこともなく、とうに過去の人だ。

「やっぱお前後輩っぽくねーな」
「それを言えば村井サンも先輩っぽくはないというのはいつも言っている通りですが」
「何つーかお前察しすぎだよな。この時期の3年ってもっとこう、ひいこら言ってたり病んでたりするモンなんじゃねーのか」
「アンタもそんな様子なかっただろ」
「まーな。つかお前また先輩にタメ口利きやがった」
「僕のそれに関しては今更気にしてもないでしょ」
「てへっ」

 就活サイトの煽る大学3年生像とは良くも悪くも違う僕と村井サンは、そういう型にハメたい世間様からは良く思われないかもしれない。こっちからすれば、テンプレートやハウツー通りに生きる方がナンセンスだね。
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