03
□一逃げ二銃三硝子
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頭の中では、自分の吐く荒い息と靴の音だけが響いていた。ワックスがかけられたばかりでツヤのある床。学校の校舎のようだ。追手はすぐ傍。少しでも気を抜くとやられる。
「朝霞クンこっち!」
階段を上った先で開いた扉。俺は山口が先回りして確保してくれたらしいそこへ迎え入れられた。部屋に入った直後、バタンと激しく扉が閉まる。
周り一面白い壁。窓と扉がひとつずつあるその部屋で、追手がバタバタと通り過ぎていく音だけを感じながら肩で呼吸を繰り返す。何だってんだ、何だって俺が追われなきゃいけないんだ。
「朝霞クン大丈夫?」
「何とか……」
「連中もしつこいな、どこまで追って来るんだろ」
「つばちゃん、今のうちに装備確認しといた方がいいかも」
「そだね」
壁に背中を押し付け、床に座り込みながら山口と戸田のやり取りを見ていた。俺自身、まだまだ体力が回復していない。これだけ長い時間全力で走ったのは記憶にない。
戸田はウエストポーチからカッターやらロープやらを取り出して不備がないか確認しているし、山口はまたここに追手が迫らないか警戒しているようだった。どうやら山口は道具などを持たないのだろう。
何故俺たちが追われているのか、その理由はわからない。記憶にないと言う方がいいかもしれない。わかっているのは、奴らの狙いが俺であること。それくらいだ。
「山口、戸田、お前たちは大丈夫なのか」
「俺たちはダイジョ〜ブ、朝霞クンを守るのが仕事だからね」
「朝霞サンそんなこと言ってる暇あったらちょっとでも体力戻しといて。また走ることになるだろうから」
「あ、はい」
手っ取り早く体力を戻そうと床に横たわろうとしたら、それはダメだと制止された。横たわると次に何かあった時すぐに逃げられないと。あくまで隙は作らないようにしなくてはいけないらしい。
慣れないことをしたからか、落ち着かない。全力で走ったりなんかするから。ただ、俺は逃げ続けなくてはいけないのだろう。何か悪いことをした覚えもないのに。
そして、俺の命は恐らく山口と戸田次第だ。俺を守るのが仕事だと言う2人が、これまでにどう働いてくれたのかも俺はよく知らない。いや、もしかしたら、見ない方がいいのかもしれない。