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□ドライブアウェイ
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「広瀬先輩、卒業おめでとうございます」
「サンキュ。しかし、お前とこうやって2人で飲むとは思わなかった」
「まさか俺も、こうなるとは思ってなかったっす、高校の頃は」

 広瀬先輩を知ったのは6年前。高校でバスケ部に入部したときだ。先輩は星高男バスのエースフォワードとして活躍してて、ど素人の俺なんかとは全然住む世界が違う人だと認識していた。事実、そんなに関わりの深い方の先輩じゃなかったし、先輩が高校を卒業してからはもう会う事もないんだろうなと思っていたから。

「でも、不思議なめぐり合わせって、本当にあるのかもな」
「そうですね」

 だけど、大学に入って驚いたこと。MBCCでの高ピーとの出会いもそうだったんだけど、まさかその場に広瀬先輩がいるなんて。広瀬先輩ほどの人だったら大学でもきっとバスケ一本でやってるだろうと思ってたから。

「あんまり懐かしかったから思わずサークル室に引きずり込んじまったもんな」
「まさか俺の事を覚えてるとは思わなくて」
「そりゃ覚えてるさ。生徒会長にも驚いたけど、やっぱりビックリしたのはお前だったなー」

 放送サークルという思いがけない場所での再会に弾む会話。きっとそれで緊張がほぐれてあの場所に馴染んでしまったんだと思う。「広瀬の高校の部活の後輩」っていうそれだけで、咲良さんや他の先輩たちの目も少し違ってただろうし。

「でも先輩、バスケだけじゃなくて番組やらせても凄いなんて反則ですよ」
「俺としては番組とかに関してはそんなに努力はしてなかったけどな。あれはホント、天性のモノで。喋りって、やっぱりある程度適性ってあると思うからさ。俺はアナ向きだった、それだけだ」
「まあ、俺はアナには向いてないとは思います。天性のモノもないですし、きっと根っからのミキです」
「そういやこないだ村井に会ったんだけど、「伊東はどうしてる?」って聞かれたよ」
「村井さんがですか?」

 村井さんと言えば向島大学のミキサーで、その腕は向島インターフェイス放送委員会のナンバーワンミキサーと言われたほどの人。人としてもミキサーとしても俺の憧れの人。村井さんには合宿や定例会、それこそいろんなところでお世話になっていて、他校の先輩の中では一番親しい人だったりもする。

「アイツ、星港にある広告会社の営業だって」
「ああ、何かわかる気がします」

 何か村井さんの人柄と能力ってやっぱり営業っぽいな〜とかってうっすら思ったりもするし、何か、営業マンとして働く姿が想像できてしまうんだ。
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