03

□スリーインワン
1ページ/12ページ

公式学年+1年

++++

「あ、散らかってるけど気にしないで」
「お邪魔します」

 ゼミで作ってる音声作品の編集作業が一段落したのが午後9時。今は班に分かれて簡単なラジオ番組を作ってるんだけど、喋りは喋り、編集は編集、と完全分業制をとっているおかげで編集は俺と鵠さんの手に全てが委ねられている。
 スクールバスはまだ最終便が残っていたけれど、明日も1限の時間帯から作業をすることに決まり、起きる自信がないという理由で大学に近い鵠さん宅に泊めてもらうことに。あ、いや、俺が泊めてって言ったワケじゃなくて半ば強制的に引きずり込まれたカタチだ。

「鵠さん、これくらいなら俺の部屋より全然キレイだよ」
「お前見かけによらず部屋とか汚ねぇの?」
「酷いときは結構」
「へー、なんか意外だな。今度原チャで行くから覚悟しとけな」

 どうやら俺はサークルの同期とゼミの同期とでは置かれているポジションが違うらしく、サークルの同期…エイジやハナちゃんにはさほど驚かれない部屋の汚さも、ゼミでは「意外」ととられてしまうのだから、いつの間にかついている「キャラ」というものは本当に怖いな、と思った。

「あ、ジャージでよければ着替えあるけど着るか? つーかジャケットにジーパンじゃ窮屈だろ」

 俺がうんと返事をする前に目の前にはジャージが積まれているのだから、その厚意に甘えざるを得ない感じでいそいそと着替える。胸にGREENsとサークルのロゴがプリントされた少し大きなジャージに袖を通す。

「うわ、「キレイドコロ」が体育会系になってる」
「俺こんな本格的に体育会系っぽいジャージ着るの初めてだよ」

 基本的にスキー以外のスポーツが苦手な俺だから、体育会系という言葉や友達には本当に無縁で。そう考えれば鵠さんとの出会いは本当にすごいことなんだな、と思う。生まれて初めての現役体育会系の友達。鵠さんと俺はタイプ的に正反対だと言われることも多々ある。「キレイドコロと体育会系は美女と野獣でしょ」って。間に入るクールビューティーな彼女がちょくちょく言うことがそれだ。

「つーか安曇野にメールしねーとな、明日9時から作業だって」
「そうだね」

 グループ別に登録されているアドレス帳から「あずみのゆいか」を探すのが面倒で、彼女から夕方に届いた「ゴメン、今日は無理」というメールを開いて返信メールを作る。明日は朝の9時から編集をやります、という文章を打ちながら作業についての打ち合わせをするけど、それよりも上を行くのは過度の空腹。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ